事故ゼロを目指す、
建機メーカ初の
衝突軽減システム
「K-EYE PRO

開発ストーリー

K-EYE PRO

機械後方の死角エリアで人や障害物を検知すると、自動で機械を減速、停止。作業性の確保にも配慮しながら現場の安全性向上を実現する、建機メーカ初の画期的なシステム

越智 智彦
GECショベル開発部
中型ショベル開発グループ マネージャー
プロジェクトのまとめ役として開発を牽引
1991年入社。開発全体をトータルにマネジメント。「事故ゼロを目指すコベルコの取り組みは始まったばかり。今後も現場の声に耳を傾けながら、システムを進化させていきます」

木下 明
GEC開発本部 要素開発部
電気制御系開発グループ
システムの核となる検知技術を一手に担当
2012年入社。検知技術の選定といったシステムの概略を構成。「赤外線深度センサを建機向けに作り込むのは大変でしたが、同時にさまざまな知見を得ることができました」

藤原 翔
GEC開発本部 先行技術開発部
イノベーション推進グループ
安全性と作業性を兼ね備えたシステム構成を追求
2008年入社。システム系開発のスペシャリストとして、今回のプロジェクトに参加。「安全性と作業性の両立を追求し、お客様がストレスなく使えるシステム作りを目指しました」

岡田 共史
GEC開発本部 先行技術開発部
イノベーション推進グループ
障害物との衝突を防止する建機の動きを具現化
2015年入社。制御開発を一手に担当。「センサの検知情報をいかに建機の動きへと正確にリンクさせるかという難題をやり遂げたことは、今後の自信につながりました」

2017年9月、コベルコ建機では新型SKシリーズの20tクラス油圧ショベルの販売を開始した。本機は「低燃費のコベルコ」としてさらなる燃費改善に取り組んだ新エンジンを搭載。さらに目玉となる新機能も装備している。それが、死角エリアの人や障害物を検知し、自動で機械の旋回や走行を減速・停止する本格的な衝突軽減システム「K-EYE PRO」だ。建機業界初のこのシステムを製品化させたプロジェクトのリーダーである越智智彦は、開発の背景をこう語る。

越智

以前から土木の現場に従事する方々は、高い安全意識を持って作業をされていました。しかし、それでも建機と人による事故は後を絶たず、死亡事故もなくなっていません。この現状を打開し、死亡事故ゼロの実現に貢献する安全技術の開発は、すべての建機メーカの課題となっていました

そこで14年、コベルコは機械と人との衝突を未然に防ぐ技術の開発に、満を持して着手した。

建機用に特化した赤外線深度センサを開発

「K-EYE PRO」の開発にあたり、まず取り組んだのが検知方法の選定だった。技術開発を遂行した木下明によると、検知の方法には自動車の衝突軽減システムで採用されているカメラ方式をはじめ、超音波センサやミリ波レーダなど、さまざまな種類の技術がある。それを約1年間かけて比較検討した結果、赤外線深度センサによる検知にたどり着いたという。

木下

距離画像を利用して、障害物の位置を3次元的に正確に把握できる赤外線深度センサなら、例えば地面を障害物だと検知して減速しないよう、一定の高さ以下は検知対象にしないという緻密な設定も可能です

ただし、複雑な制御を行う赤外線深度センサは精密な電子部品そのもの。建機の振動や高温下の現場でも問題なく作動するよう調整するには、さらに1年間の時間が必要だったと、木下は当時の苦労を振り返る。

木下

センサメーカの技術者に直接現場を見てもらい、どの程度の耐久性が必要かを確認するなど、ディスカッションを繰り返しながら仕様を調整していきました。また、赤外線深度センサには、外部からの電気的ノイズにシビアな部分があったため、逆に私たちがセンサメーカへと出向き、深夜までその対策を練ったこともありました

こうした努力が功を奏し、建機用の衝突軽減システムに最適なセンサは完成した。

安全性と作業性を両立するシステム構成を追求

次のフェーズとなったのは、建機用へと調整された赤外線深度センサを核とするシステム構成の設計だ。手始めに人身事故が起こる状況を分析した結果、死亡事故の6割が挟まれたり轢かれたりする事故で、ほとんどが建機の後方エリアで起きていることが判明。そこで「K-EYE PRO」では、機体後部に4つの赤外線深度センサを配置し、オペレータの死角になる部分をセンサでカバーすることで事故発生の抑制を目指した。

昼夜、人や障害物を問わず検知できる赤外線深度センサで障害物を検知

また、障害物を検知した場所により、建機をどのように動かすべきかを詳細に検討。それを実現するための最適な油圧回路や制御システムを構築した。これらの具体的な作り込みを担当した藤原翔は、そのこだわりをこう語る。

藤原

『K-EYE PRO』では、建機本体から2.0m以内を減速エリア、0.5m以内を停止エリアとしています。減速エリアを広げ過ぎてしまうと、安全性は増すものの作業性の低下は避けられず、どちらも犠牲にしない設定を追求しました

システム作動により機械の動きが停止しても、アタッチメントの操作は可能にするなど、お客様にストレスを感じさせないことに配慮しながら、作業性と安全性を併せ持つシステム構成を磨き上げていった。

検知エリアや時間帯ごとの検知回数のレポートを専用ウェブ画面上で確認可能。
現場の事故防止対策やKY活動の資料として活用することで、事故発生の抑制に貢献する。

一方、藤原の組んだシステム構成を、減速、停止といった建機の実際の動きとして具現化する制御面の開発を担当したのが岡田共史だ。

岡田

違和感なく減速、停止させるためには、障害物との距離はもちろん、建機自体が動く速さも考慮して油圧量を調整する必要があります。そのためのきめ細かい詳細設定に苦労しました

障害物が動くケースも含めて100通り以上の検知パターンをパソコン上でシミュレーションしつつ、実機での検証も繰り返し行い、スムーズな減速感を可能にする制御を導き出した。

後進時、または走行時の制動イメージ

今後は20t 以下の小型機への搭載も目指す

「K-EYE PRO」には、衝突の危険を音で知らせる機能や、機体後方の死角部分を運転席から確認できるモニタが装備されるなど、二重、三重の安全対策が施されている。現場での実証試験を依頼したお客様からは、「このシステムを搭載した建機に乗ることでオペレータの安全意識が今まで以上に高まった」という、開発陣が想定していなかった効果を訴える声も多数あった。

越智

現在の『K-EYE PRO』はSK200-10限定のシステムです。ただ、小型の機械のほうが周辺で働く作業員との距離が近く、このシステムの必要性が高い狭所現場での稼働が多いため、今後は20t以下のクラスにも展開していく予定です

将来的には全機種への搭載も視野に入れていると語る開発メンバーたち。
建機による事故ゼロ実現に向けた試みが、「K-EYE PRO」の開発を契機に今、大きく動き出した。

※掲載内容は発行当時(2017年10月)の情報です。