コベルコ建設機械ニュース

Vol.268Apr.2025

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KOBELCO TOPICS SK470/SK500LC/SK500D/
SK500DLC/SK550DLC 開発ストーリー

新エンジンを搭載し、ユーザニーズを随所に反映した50tクラス
「Performance × Design」シリーズの
大型ショベルが国内市場に登場
SK470/SK500LC/SK500D/
SK500DLC/SK550DLC 開発ストーリー

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  • 下田 美那子

    下田 美那子 マーケティング事業本部
    ショベル営業本部 商品企画部
    中大型ショベル 商品企画グループ


    2022年入社。先行受注や市場要件のとりまとめなどを担当。「今回の先行受注の取り組みは、通常の進め方とは異なるイレギュラーなもので迷うことも多かったですが、その分学びは大きかったと思います。この経験を活かして、今後の製品開発に取り組んでいきたいです」

  • 仙石 敬範

    仙石 敬範 技術開発本部 ショベル開発部
    ショベル開発グループ
    アシスタントマネージャー


    2013年入社。50t大型ショベルにおける新型エンジン搭載に関わる動力系統の設計を担当。「普段は中型モデルの標準仕様機の開発と機種担当を兼任しているのですが、本プロジェクトで環境機、それも大型モデルのエンジン設計に携わることができ、その経験は非常に貴重なものとなりました」

  • 向川 徹喜

    向川 徹喜 技術開発本部 環境特機開発部
    大型ショベル・特機開発グループ


    2020年入社。新しい建物解体専用機における開発要件の抽出やその実行を担当。「判断に迷った際は、常に“ユーザー現場主義”に立ち返ることを意識。本プロジェクトでも、要件検討に悩んだときはまず現場の声に耳を傾け、ニーズを的確にとらえることを心がけました」

「Performance × Design」は、高い作業効率と生産性を追求しながら、オペレータの使いやすさと快適性を重視するコベルコ建機の新時代の設計思想だ。7tクラスの油圧ショベルに初めて導入され、その後、海外モデルやミニショベルにも継承されている。

2025年、この設計思想を継承するラインナップに50tクラスの大型ショベルが新たに加わった。2月に販売が開始された建物解体専用機を皮切りに標準仕様機、解体仕様機、砕石仕様機、マグネット仕様機、スクラップローダ仕様機の計6仕様、7機種が順次市場へと投入される予定になっている。

50tクラスの大型ショベル開発では
そのスピードが重要だった

今回の50tクラスの大型ショベル開発は、その背景からスピードが重視されたという。商品企画部・中大型ショベル商品企画グループの下田美那子はこう語る。

「50tクラスの新機種は多くのお客様からのニーズがあり、一刻も早く国内のお客様にお届けしたいという想いから、開発のスピードをいつも以上に重視しました」

このプロジェクトでは、従来の開発プロセスと比較して開発期間を3分の1に短縮。一から製品コンセプトを構築するのではなく、既存の「Performance × Design」の設計コンセプトを採用した海外モデルをベースに国内市場向けに最適化することで、迅速な市場投入を目指した。

この限られた時間の中で、いかに高品質な製品を完成させるかがプロジェクト成功の鍵となった。短期間での開発と併せて課題となっていたのが、製品がお客様のもとへ納品されるまでのスピードだ。通常このクラスの機械は、受注からお客様のもとに届くまで半年以上かかる。しかし、それでは多くのお客様をお待たせすることになってしまう。

そこで採用したのが、“先行受注”という販売スタイルだ。先行受注とは、発売前に顧客から注文を受けつける方式であり、これによりお客様への納品スピードは通常よりもグンと加速する。また、生産部門との協力体制を築くことで、大幅な生産台数の向上も実現した。

SK500 LC-11

SK500LC-11

これまで後方超小旋回ショベルのみで展開されていた「Performance × Design」シリーズの国内初となる通常型ショベル。新しいエンジンの搭載により、生産性および作業スピードの向上、そして燃費効率の改善など、全方位的な性能が進化をとげた

新エンジン搭載の壁を突破せよ!
動力系統設計の挑戦

開発スピードに加え、今回の開発プロジェクトで特に大きな壁となったのが、動力系統の設計だ。前モデルとは異なるメーカのエンジンへと、短期間で載せ替えなければならなかった。この難易度の高いミッションを担ったのが、ショベル開発グループのアシスタントマネージャー・仙石敬範である。

「国内向けのコベルコ建機製ショベルでは前例のない、外資系カミンズ社製エンジンへの載せ替えでした。そのため、カミンズ社との仕事の進め方が確立されておらず、カミンズ社のスタッフとの調整や情報共有がこれまで以上に重要な開発案件となりました。さらに、短期間の開発にもかかわらず、一からレイアウトを見直さなければならない部分もあり、課題は多かったです」

例えば、新しいエンジンの後処理装置は、前モデルに搭載されていたものより格段に大きくなっていた。そのため、ショベル本体の車幅を維持しつつ組み込む作業は容易ではなかった。そこで問題となったのが、カミンズ社が設計したモジュールのサイズである。そのままではどうしても車体に収まらず、一部部品をコベルコ建機で設計し、搭載をコンパクトにすることで適合させたという。

「外資系メーカは、基本的に“あるものを提供する”というスタンスなので、部品の形状変更の要望が通ることはほとんどありません。それでも今回は、粘り強く交渉を重ねた結果、いくつか当社の要求を採り入れてもらうことができました」

このように、限られた開発期間の中でカミンズ社との綿密な調整を重ね、最適な動力系統を設計するという試行錯誤を経たことで、今回の新型ショベルは誕生したのだ。

エンジンを載せ替えることで、H、S、ECOという各作業モードにおけるそれぞれの性能も進化。生産性および作業スピードの向上、さらには燃費効率の最適化が実現され、従来モデルと比較して総合的なパフォーマンスが飛躍的に進化している。

SK550DLC-11

SK550DLC-11

新たな50tクラスの大型ショベルの建物解体専用機。9年ぶりの新モデルの登場に、先行受注では期待以上の反響を得た。ユーザからの要望を踏まえアタッチメントの組立性を改良。前モデル同様に搬送しやすい車体幅3m以内を維持している

建物解体専用機ではニーズを反映し、アタッチメントの組立性を改良

前述したように、今回の開発プロジェクトでは先行受注という販売スタイルが導入された。特に建物解体専用機の注文数はほかの仕様と比べて想定以上の反響があった。こうした市場の反応を受け、50tクラスの大型ショベル開発においては、建物解体専用機が標準仕様機に先駆けて市場投入されることとなった。その開発を担当した大型ショベル・特機開発グループの向川徹喜は語る。

「9年前に開発された前モデルの建物解体専用機のシェアは、国内トップクラス。多くのユーザに長く愛用していただいたからこそ、その改善の要望は当社にも多く届いていました。なかでも目立って多かったのは、アタッチメントの組み立て・分解に関すること。作業に応じてアタッチメントを現場で交換することの多い建物解体専用機では、その簡易性がそのまま仕事の生産性につながります。そこで、50tクラスの大型ショベルのセパレートブーム仕様ではクイックヒッチ配管を標準装備。これにより、先端アタッチメント交換が容易に行えるようにしています。また、アタッチメントへの圧抜きポートの追加により圧抜き作業を容易にし、無理な接続によるカプラのシーリングへのダメージも低減させました。さらにメインブームとアタッチメントの接続作業を、作業台がなくても地上から行えるようにアタッチメントのホース長さや組み立て手順を見直しました」

このように、50tクラスの大型ショベルは、従来機に対するユーザの声を反映しながら、エンジンの載せ替えによる性能の向上も含め、より効率的な運用を可能にすべく着実な進化をとげたのだ。

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※所属部署・役職は取材当時のものです

山田 高広= 取材・文 木下 裕介= 撮影 text by Takahiro Yamada/photographs by Yusuke Kinoshita