コベルコ建設機械ニュース

Vol.263Jan.2024

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特集土木・建設現場で進化するコベルコ建機の安全装置
ショベル

衝突軽減システム
「K-EYE PRO
進化の方向性

建設機械で初めての衝突軽減システムとして、2017年に上市された
コベルコ建機の「K-EYE PRO」。
現場の安全性を高めるため、現在もその次期バージョンの開発が着々と進められている。その開発に携わったメンバーに話を伺った。

越智 智彦

技術開発本部
ショベル開発部

ショベル開発グループ
マネージャー

越智 智彦

中野 稔志

技術開発本部

ショベル開発部
ショベル開発グループ

中野 稔志

機械を止めるという
業界初の試みを実現

2017年、機械後方エリアで人や障害物を検知すると、自動で機械を止めるという安全ファーストの機能で、建機業界やユーザに強いインパクトを与えた衝突軽減システム「K-EYE PRO」。開発のきっかけとなったのは、国土交通省が推進するi-Constructionの取り組み。その過程で、ICT を活用して現場の死亡事故を減らすという方針が打ち出されたことから、コベルコ建機ではK-EYE PROの開発に着手した。

その開発を指揮したのが、ショベル開発グループの越智智彦だ。

越智:
当時は、安全のためとはいえ本当に機械を止めていいのか、ショベルに必要な装置なのかという議論が社内でもありましたが、衝突軽減システムはすでに自動車には搭載されていましたし、何事も先駆けて取り組むのがコベルコ建機らしさだろうということで開発を進めていました

越智たち開発陣の努力が実り上市されたK-EYE PRO。ユーザからの評価はどうだったのだろう。

越智:
機能としては画期的だったのですが、機械を停止させるというところに意識を向けすぎたため、お客様の現場で本当に受け入れられるかという点にまで目が行き届かなかったのかもしれません。現場の資材や草木などにも反応して機械が止まってしまうというケースもあったようで、評価いただけなかったお客様もいらっしゃいました

厳しい現実に直面したK-EYE PROだが業界への影響は絶大で、その後に競合メーカから衝突軽減システムが続々と発売されることになる。

現行のK-EYE PRO
検知・制動イメージ

現行のK-EYE PROの検知・制動イメージ
現行のK-EYE PROの検知・制動イメージ

人に対する検知精度を
アップするための
新しい仕組み

現行のK-EYE PROの評価を踏まえ、次期バージョンの新たな「K-EYE PRO」はどんなコンセプトで開発が進められているのだろう。開発におけるプロジェクトリーダーを担う中野稔志はこう語る。

中野:
現行のK-EYE PROでは、現場の資材や草木などを検知してしまうこともあり、作業性という点に問題がありました。しかし、機械を減速・停止させるというところは画期的で他メーカよりも一歩先を行っていた。その部分は評価されていたという背景もあったので、対象物が接近して危険になったときに機械を止めるという安全性はしっかり守りつつ、現場でスムーズに使えるよう作業性も落とさないように開発を進めるというのが一番大きなテーマとなっています

さまざまなものに反応し過ぎて止まってしまう、という点をどうするか。その打開策としてカメラによる画像学習と新技術により人だけにフォーカスして検知するという仕組みだった。

中野:
現行のK-EYE PROでは赤外線センサーによる検知を採用していたのですが、それだとどうしても人以外にも反応してしまいます。そうした課題を解決すべく、他メーカのなかにはセンサーに光沢のあるものだけを検知させるというやり方を採用しているところもあります。作業員にキラキラ光るベストを着用させることで、人だけを検知するというものですが、しかしそれでは光沢のあるものならなんでも反応してしまうという点で、抜本的な解決策にはならない。さらに、現場では専用ベストを着用するという条件が必須になります。その点、次期K-EYE PROが採用する予定の方式ならば、人を形で検知するため人以外への反応を抑えつつ、現場での新たな条件も不要となる見込みです

次期K-EYE PROの画面イメージ

検知範囲外(通常画面)→ 減速域:黄色枠 → 停止域:赤色枠

検知表示

ショベル付近で人を検知すると、キャブ内に設置された液晶画面が鳥瞰図に自動で切り替わり、検知エリアを色分けで表示。

お客様の声が
完成度の向上に貢献

検知方式の変更とともに、機械を減速・停止させる条件も今回見直したことの1つだ。

中野:
現行のK-EYE PROの対応機種は、20tクラスの通常型ショベルだったため、旋回したときに振れ幅が大きく、減速・停止エリアを広めに取っていました。一方、次期K-EYE PROでは後方超小旋回ショベルを対象機にしています。旋回時に車幅から車両後部のはみ出しが少ない分、減速・停止エリアを狭くし、安全性を保ちながら作業性も落とさないようにする改善を盛り込んでいます

こうした技術面の改善とともに、システムとしての完成度を高めることに貢献したのがお客様からの声だった。

越智:
前回の開発プロジェクトではテスト段階でお客様に乗っていただいて意見を伺うという機会があまりもてませんでした。そこで、今回は、お客様に試乗していただく機会を可能な限り増やしました。それが、開発プロジェクトに良い影響を与えたと思っています

とあるお客様からは、次期K-EYE PRO搭載機に試乗した感想として、「機械の停止具合が急すぎる」との声をいただいたという。

中野:
感覚は人それぞれとはいうものの、そうした細かいところまでオペレータのことを意識して開発していなかったことに気付かされた瞬間でした。一度原点に立ち返ってとても勉強になったと思いましたし、お客様への寄り添い方が少し足りなかったとも反省しましたね。こうした多くの実直なご意見に関しては、しっかり対応し、改善を積み重ねることで製品を良い方向にもっていくことができると思っています

お客様の意見によると、ゼネコンの現場では、ショベルにドライブレコーダーの装備を義務づけるところもあるというだけでなく、現場での危険なシーンを作業員に映像で見せることで、よりリアルな安全教育に役立つはずだと期待されている。この意見も踏まえ、次期K-EYE PROでは新機能の追加も予定されているという。

さらなるバージョンアップへ
技術開発に終わりはない

多くのお客様からの声がフィードバックされた次期K-EYE PROの開発は、さまざまな進化を形にして、着実に完成へと進んでいる。実機を使用いただいたお客様の評判も上々で、検知対象を人にフォーカスしている点が多くのお客様から評価を得ている。そのなかで、人に対する検知に関しては「まったく反応しなかった」という声はなく、高い検知精度を実証。また、人以外に対する検知に関しては、オペレータによってさまざまな意見があったものの、稼働に支障をきたすほどの影響はないという結果を得られた。

コベルコ建機には、ミニクラスのショベル用としてすでに販売されている衝突軽減システム「OmniEye®」も存在する。これは後付けのカメラを使用するもので、設定した危険領域に応じてAIが警報を発し、機械を停止させる安全監視カメラシステム。後方超小旋回の重機ショベルに搭載される次期K-EYE PROが上市されれば、より多くの現場に衝突軽減のための安全装置が行き渡るようになるだろう。

中野:
画像処理の技術は日々進化していますので、将来的には検知の精度もさらに上がるはずです。検知エリアの拡大や最適化、さらなる検知精度アップなどが今後の検討課題です

現場の環境は常に変わる。だからこそ、それに対応する技術開発に終わりはない。

越智:
安全装置の開発において重要なことは、ここが危ないから対処するといった対症療法ではなく、常に一歩先を予測して、こうしたら良くなるというアイデアを提案すること。次期K-EYE PROに関しても、新たな提案で現場の安全性をさらに向上させていければと思っています
ハイリーチ®用の回転灯 外部警告灯:オレンジLED点滅 外部音声アラーム用スピーカー

外観

ハイリーチ®用の回転灯(黄色回転灯)と混同しない形・色のライト(オレンジLED点滅)が装備される。

  • 山田高弘= 取材・文 text by Takahiro Yamada
  • 三浦泰章= 撮影 photographs by Yasuaki Miura