コベルコ建設機械ニュース

Vol.263Jan.2024

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特集土木・建設現場で進化するコベルコ建機の安全装置
クレーン

ドローンを活用した
移動式クレーンの
点検ソリューション

以前からブームの高所部分が見えないといった課題が挙がっていたクレーンの点検業務。その解決策として今回コベルコ建機が開発したのが、ドローンによる点検ソリューションだ。
いよいよサービスを開始しようとしている本ソリューションについて、開発メンバーが紹介する。

郷之丸 亮弘

マーケティング事業本部
クレーン営業本部
クレーンCS部

サービス業務グループ
マネージャー

郷之丸 亮弘

西村 真嗣

マーケティング事業本部
クレーン営業本部

クレーンCS部
サービス業務グループ

西村 真嗣

橋本 奨

マーケティング事業本部
クレーン営業本部
クレーン商品企画部

クレーン商品企画グループ
マネージャー

橋本 奨

点検業務の課題解決に
ドローンを活用

022年度の下期、コベルコ建機はドローンを活用してクレーンを点検するというテーマに取り組み始める。その背景にあったのが、長年課題とされてきたクレーンの点検業務の難しさだ。開発プロジェクトのメンバーの一人、クレーン商品企画グループの橋本奨はこう語る。

橋本:
クローラクレーンは、ブームを立ち上げるとその長さは傾斜仕様でも60m、タワー仕様ともなると100m近い高さになるため、通常は地上面にブームを伏せて点検が行われます。現場に長期にわたって投入されることが多いクローラクレーンでは、工事期間中に点検が必要なことも少なからずあり、ブームを倒すスペースのない狭小地の現場では地上面から双眼鏡で確認をするという手法が一般的でした。しかし双眼鏡を使っての点検では、一方向からの視界となり、見えない部分が非常に多い。ドローンを活用すれば、そうした課題を解決できるのではないか、との想いから開発に着手しました

近年ドローンの分野も、ハードウエア面での進歩が著しい上に、コストもそれなりに下がったことがドローン点検の開発を後押しすることにもつながった。

自動飛行ルート設定 予定画像 撮影結果

ドローンによるクレーン
点検の基本的な流れ

確認したい箇所を撮影するための自動飛行ルートを作成。事前に3Dシミュレーション上で撮影画像を確認できるため、カメラの向きや画角など最適な撮影方法を選定できる。

自動飛行で見たい箇所を
しっかり撮影できる

およそ1年かけて完成させたドローンを活用した点検ソリューションの仕組みは、あらかじめ飛行ルートをソフトウエアに入力することで、ドローンが自動飛行して写真を撮影し、その電子画像を見ながら点検が行えるというもの。事前に3Dシミュレーション上で撮影画像を確認したり、自動飛行中でも手動介入により任意の部分を撮影したりすることもできるので、点検箇所を撮り逃す心配もない。

当初は、ドローンを手動で飛ばすか、自動で飛ばすかという選択で迷ったというが、サービス業務グループのサービスマンでもある郷之丸亮弘の強い主張により自動飛行が選択されたという。

郷之丸:
手動で飛行させるとなると、どうしても操縦者の腕によるところが大きくなります。そのため、いろいろな弊害が出てくるのではないかと考えました。例えば、クレーンの知識よりもドローンの技量で操縦者を選ばざるをえないため、ここを撮ってほしい、ドローンをこの位置まで動かしてほしい、ズームしてほしいなど、撮影の際には具体的な指示をしなければなりません。また、細かく言わないといけないため、指示する側にもクレーンとドローン双方の知識が求められます。そうした不確定要素がいろいろとあることを考えると、やはり手動ではないだろうと考えました。その点、自動であればあらかじめ決めたところを決めた角度で、決めた画角で撮ってくれるので、操縦者の技量に頼らずともしっかりと撮りたいポイントを撮影できるというのが選択の決め手になりました

性能検査における電子データの活用を公的機関に働きかける

コベルコ建機が開発したドローン点検ソリューションのメリットはいろいろあるが、まずはワイヤーの一本一本まで光学ズームで撮った画像によりアップで見られるということが挙げられるだろう。点検に十分な画質の写真をわずか30分で152枚撮影でき、目視では見えなかった部分をクリアかつ確実にチェックすることが可能になる。

さらに、自動飛行ルートをあらかじめ設定するため、狙った箇所をピンポイントで撮影可能。点検にかかる時間の短縮化にもつながる。クレーンが現場に入っている場合、その工事の施工進捗というのが優先されるため、機械の拘束時間を極力短くした状態で点検できるドローン点検ソリューションなら、お客様からの支持も集められるだろう。

点検した箇所の記録を画像による電子データで残せるのも大きなメリットの1つ。将来的な話にはなるが、以前の状態との比較も行えるという点で、安全性を高めていくのに役立つはずだ。

橋本:
2年に一度、公的機関によって行われるクレーンの性能検査では、目視での点検が定められていて、画像による点検は認められていません。これまでヒューマンパワーでなんとか行ってきた点検業務ですが、働き方改革の推進で今後はこなせなくなる可能性も高まる。ドローンによる点検ならブームを倒さなくても可能なため、作業の省力化が図れる上に、その精度も上がるはず。目視にプラスする手段として認めてもらえるよう、業界の一員として監督官庁へ働きかけていきたいです

経験豊富なサービスマンが撮影ポイントを選定

本開発プロジェクトには、目視での点検業務の経験も豊富な2人のサービスマン、すでに前項で登場した郷之丸亮弘に加え、国内担当の西村真嗣が中心メンバーとして参加している。ドローンで点検していくときの撮影ポイントは、42mのブームなら60箇所程度。どの部分を見るべきか、その選定には2人のサービスマンとしての知見が大いに役に立っている。

郷之丸:
目視での確認では、ここは見ておくべき箇所というのがあります。例えば、不具合があると安全性で大きな障害になる部分や、よくトラブルの発生する部分がそれに当たります。ドローン点検でもそういった部分を撮影ポイントとして選定しています
西村:
もっと大きいサイズのモデルもありましたが、私は移動のことを考えるとやはり小さい方がいいのではないかと思いました。このサイズなら、私たちが新幹線などでさっと現場まで点検しに出かける際にもかさばりません。コンパクトながらも撮影速度が速く、光学ズームも搭載。画質のクオリティが十分に確保されている点も選んだ決め手の1つとなりました
光学ズーム搭載で、点検業務に十分な画質

十分に点検可能な画質

撮影画像は、点検業務に十分な画質のクオリティを確保。光学ズーム搭載で、ワイヤーの細かな傷までしっかり確認できる。

ドローン点検の
さらなる発展にも期待

橋本:
将来的にクレーンの点検業務をデジタル化するのは必須だと思います。今回の開発はドローンの活用にフォーカスが当たりがちですが、重要なのは点検業務のなかでデジタルデータを活用していくという動きを活性化すること。そのためにも、2024年にはドローンを活用した点検サービスとして本ソリューションをいよいよ展開していきたいと考えています。いつでもモニターできますので、ご連絡いただければと思います

機械のみならず、今後は高層建築物や工場のプラントの点検といった横展開も視野に入れる。

さらには、社外向けのサービスとしてだけでなく、社内の業務にもドローン点検は活躍の場を広げる可能性があるという。クレーンの開発試験のような現場でも、点検業務と同じような課題があり、上空でどう動いているのかを見たいのに高所だから見えず、仕方なく地上から双眼鏡で確認することも多いとか。ゆくゆくは開発試験にも活用していくことになりそうだ。

橋本:
ドローン業界は日進月歩で、飛行性能や光学性能もどんどん良くなっています。例えば、撮影した画像や動画をどう活用していくのかとなったとき、その需要を喚起すべく、いろいろな人たちがおもしろいアイデアを積極的に出してくるというようなところがある。近い将来、こうした新しい技術をどんどん活用できるポテンシャルが高いと感じています。そう考えると、まず私たちとしてはクレーンの点検業務のデジタル化をしっかり進めることはもちろんですが、常に多様な可能性を探っていきたいと思います。ドローンを活用した点検ソリーションが、今後どんな発展を遂げていくのか、私自身とても期待しています
  • 山田高弘= 取材・文 text by Takahiro Yamada
  • 三浦泰章= 撮影 photographs by Yasuaki Miura