コベルコ建設機械ニュース

Vol.251Jan.2021

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特集先進現場のリアル
PART 2

ICT活用で
業界を変えていきたい!

現場の生産性向上や、人材不足など、土木業界のさまざまな課題解決の切り札として期待されるICT施工。
そのメリットにいち早く着目した東海産業株式会社は、コベルコ建機の3Dマシンコントロール搭載ショベルで、ICT施工の実績を着々と築き上げてきた。3D設計データの作成など、ICT施工に必要な業務の内製化にも取り組む同社に、ICT施工が創造する今後の土木工事業について聞いた。

今回の訪問先は矢印

東海産業株式会社
所在地/北海道旭川市東3条 6丁目1番36号 
tel0166-24-4111

本格的なICT施工へいち早く参入

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取締役副社長の津山信さん。「当社におけるICT化の推進は、土木・建設業界でのICT化の波を先読みした代表取締役の意向によるものでした」

北海道旭川市を拠点に土木工事業を展開する東海産業株式会社。同社は半世紀以上にわたり、道路、河川、橋梁などの整備や維持修繕業務、災害に伴う復興工事を手がけ、地域のインフラ整備に寄与してきた。従業員は現在約80名で、グループ全体では約200名に上る。コベルコ建機の機械を中心におよそ50台のショベルを所有し、豊富な機械力と施工に関する高度な技術力、また受注者として現場を一元管理できる管理能力の高さも強みとなっている。

優れた土木業者としての条件を高いレベルで備えている東海産業は、さらなる進化への準備も万端だ。同社では、2014年に2Dマシンガイダンス搭載ショベルを導入。土木作業の現場に大きな変革をもたらすICT施工の実用化に踏み切った。その翌年には、アーム操作レバーを引くだけでブームの上げ下げからバケットの排土までをも自動制御して、設計図面通りの仕上がりを実現する3Dマシンコントロール(以下、3DMC)搭載のコベルコ機を導入。本格的なICT施工を、全国でもいち早く実施している。

ICT施工の導入理由について、取締役副社長の津山信さんはこう答える。

「当社の代表取締役は、他産業のICT化の流れを見るなかで、土木分野でも必ずICTが定着すると確信していました。そこで、生産性の向上にも役立つICT施工を先駆けて導入することで、同業他社が追いつけない実績を築き、差別化を図ろうと考えたのです」

この狙いは現実となり、“ICT施工といえば東海産業”というイメージが北海道の業界内では浸透している。

若年層の人手不足に対して
ICT施工を有効活用

東海産業が早くからICT施工に注力してきたのには、もう一つの理由がある。それは、土木・建設業界全体が抱えている“若い人材の不足”という課題に直面していたためだ。
「当社のオペレータにはベテランが多く、若年層の人数が少ない状況でした。若者たちの業界に対するイメージは決して良いとはいえないなかでも、将来を見据えた求人活動には注力していました」(津山さん)

そうした状況下でICT施工を導入すると、求人活動の風向きにも変化があった。東海産業では高校生向けにインターンシップや会社見学会を実施しているが、その際にICT施工の話をすると思いのほか関心が高く、「土木業界はこんなにIT化が進んでいるのか」と、学生たちも好印象を抱いてくれるようになったのだ。新しいことに挑戦していく姿勢は、土木科以外の生徒の興味も生み出して求人のすそ野を拡大。その結果、東海産業で働いてみようという若者が増加し、この2~3年だけでも、高校生の新卒を含めて20歳前後の若者が10人ほど入社している。

「これまでは、初心者のオペレータを一人前にするには10年かかるといわれてきました。しかし、油圧ショベルのブームやバケットなどの操作が自動化された3DMC搭載ショベルを活用すれば、経験の浅いオペレータでも熟練者並みにスピーディーかつスムーズな作業が可能になります。新たに入社した若い人材も短期間のうちに現場で活躍できるようになるはずです」(津山さん)

また、ICTに積極的に取り組みたい人材を適切な部署に配置するジョブローテーションも採用し、従業員の働きがいを醸成。求人から育成、そして人材の定着まで、土木・建設業界が抱えていた長年の課題に対し、ICT施工が確かな解決策をもたらしている。

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写真の受信機でGPSなどによる測位情報をキャッチし、ショベルやバケット刃先の位置を高い精度で特定する

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タブレット感覚のタッチ操作でさまざまな設定作業が簡単にできる液晶モニタ。仕上がり断面を表示するなど、スムーズな機械作業をサポートする

photo 動画はこちら

現場は延長700mの災害復旧の河川工事だ

次世代の現場で
若いスタッフが躍動中

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初めてのICT施工に取り組む現場代理人の前川隆太郎さん。「本現場には30代を中心とした若手が集められました。本来はICT活用の対象工事ではありませんが、『若手だけでICT施工をやったらおもしろい』。そんな気持ちで挑戦しました。管理者として経験を積め、なおかつ現場効率も上がっています」

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ICT施工における3D設計データの作成を担当する古川鉄也さん。「現場でシステム上の問題が生じると、まずは私がチェックするのですが、今でも初めて見るエラー表示などがあり、ICT施工の奥深さを実感しています」

東海産業の次なる目標は、ICT施工に詳しい人材を一人でも多く増やしていくことにある。すでにそうしたスタッフは育ちつつあり、入社4年になる30歳の古川鉄也さんもその一人だ。

「私の役割は、測量や3D設計データの作成を行うことです。これらの作業はICT施工の導入当初には外部の会社に委託していました」(古川さん)

ICT建機に3D設計データを搭載することで、必要最小限の丁張りで機械作業が可能になる上、手元作業員も不要になるなど、省力化や生産性の向上に資する効果は計り知れない。さらに、古川さんのようなシステムに明るい人材を自社で育成することにより、ICT施工に関するほぼすべての工程を自社でまかなえるまでに技術力がレベルアップ。これらのメリットが功を奏し、東海産業の売上高に対する利益率はここ数年、上昇傾向が続いている。

現場代理人として20年の夏から初めてのICT施工に携わっているのが、現在36歳の前川隆太郎さんだ。築堤補強を目的とした河川の災害復旧工事の現場で、ICT施工のメリットを日々実感しているという。

「キャブ内に設置された液晶モニタを通じて現場の全体像が把握できるため、オペレータは作業をよりスムーズに行えるようです。さらに、機械周辺に人がいないので、現場の安全性が高まるのもメリットですね」(前川さん)

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現場では複数台のコベルコ製ICT建機が活躍。SK135SR-5(左)は法面整形、SK200-10(中央・右)は掘削や土砂の積み込み作業に従事していた

本現場にはコベルコ建機の3DMC搭載ショベルが複数台投入されており、それらを操作するオペレータにも話を聞いた。堤防の法面整形を担当する百武貴さんは、オペレータ歴20年。ICT建機による作業は4年目と同社のなかでは操作経験も豊富だが、初めて操作した際はその精度の高さに驚いたという。

「ICT施工では、常に設計図面通りの高い精度で仕上げることができます。操作に慣れるまでには一現場、半年ほどかかりましたが、今ではもうICT施工以外での作業は考えられませんね」(百武さん)

一方、飯田克利さんは現場経験こそ長いものの、オペレータ歴は2年ほど。それでも、ICT施工による重機作業については多くのオペレータからアドバイスを受けていたため、初めてマシンに乗った際も特に不安はなかったと振り返る。

「ベテランのオペレータは、皆一様にICT施工の利便性を高く評価していますね。法面整形の際、機械を降りての確認作業が不要になり、作業時間が大幅に短くなったという声をよく聞きます。私自身は、バケットが設計面に到達すると自動的に動きを制御して、掘り過ぎを防止してくれる機能にメリットを感じています」(飯田さん)

現在、東海産業では、現場のおよそ2〜3割をICT施工による工事が占めている。3DMC搭載のコベルコ機を10台導入済みだが、今後は約50台あるショベルを順次ICT建機に切り替えていく予定だという。先進テクノロジーを切り札に成長を続ける東海産業は、これからもICT施工で土木工事業の課題を解消し、未来を創造していくことだろう。

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コベルコ建機のICT建機で法面整形の作業に従事するオペレータの百武貴さん。「丁張りがほとんど不要になったことで、そのための待ち時間もなくなり、生産性は確実に向上しています」

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ショベルに乗り始めて2年のオペレータ、飯田克利さん。「ICT建機の操作で分からないことがあっても、経験豊富なオペレータにその都度確認できます。そのため当社の現場では、私のような経験があまりないオペレータでも安心して作業を行うことが可能です」

山田高弘= 取材・文 神保達也= 撮影(人物) text by Takahiro Yamada/photographs by Tatsuya Jinbo