コベルコ建設機械ニュース

Vol.257Aug.2022

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特集最良の価値を提供「安全」にかけるコベルコの想い

最良の価値を提供
「安全」にかける
コベルコの想い

ミニショベル向け衝突軽減装置
OmniEye®上市に寄せて

土木・建設や解体等の現場でも、働き方改革や建設DXが進み、ICT施工なども浸透してきた。
さらに現場の安全性に関しても、これまでのノウハウとデジタル技術を駆使した改革が進められている。

そこで、今回はコベルコ建機のショベルを巡る安全思想と施策の歴史を踏まえながら、
最新の衝突軽減装置OmniEye(オムニアイ)の概要と開発ストーリーを紹介する。

開発、マーケティングに携わったコベルコ建機の平山道夫、酒井 満と
株式会社レグラスの酒井 将さん、小川幸孝さんに
OmniEyeに託された安全にかける想いを語り合ってもらった。

※OmniEye®は株式会社レグラスの登録商標です。

コベルコ建機「安全」への取り組み

1987年
世界初の安全機能、旋回フラッシャや乗降遮断式ロックレバーなどを装備した「SK-New MarkⅡ」を発売
1989年
建機業界初、ショベルでクレーン作業を可能に。安全なつり荷作業を実現した「ハイリーチクレーン」を開発
1996年
後端のはみ出しがほぼ車幅内(後に車幅の10%以内)となる後方超小旋回ショベル「ビートルシリーズ」を開発
2011年
メインブーム兼用型の機械における組立・分解作業が大幅にシンプル化され、安全性と使いやすさを追求した次世代アタッチメント「NEXT(ネクスト)」を発表
2016年
機械故障を未然に防ぐ予防保全システム
K-スキャン」を開発
2017年
建機業界初の衝突軽減システム
K-EYE PRO」を開発
2019年
現場に行かずに作業ができる、
ショベルの次世代遠隔操作システム
K-DIVE CONCEPT」を発表
  • 平山道夫

    平山道夫

    マーケティング事業本部
    ショベル営業本部
    施工ソリューション部
    ソリューション開発グループ
    マネージャー

  • 酒井 満

    酒井 満

    マーケティング事業本部
    ショベル営業本部
    施工ソリューション部
    ソリューション営業グループ
    マネージャー

  • 酒井 将さん

    酒井 将さん

    株式会社レグラス
    代表取締役社長 

  • 小川幸孝さん

    小川幸孝さん

    株式会社レグラス
    取締役 IPS事業部長

ショベルに求められる
安全要件を盛り込む

今回開発されたミニショベル向け衝突軽減装置OmniEye誕生の背景について教えてください。

平山:
コベルコ建機は、2017年9月発売のSKシリーズ・20tクラス油圧ショベルに衝突軽減システム「K-EYE PRO」を搭載しました。これは他社に先駆けて、死角エリアの人や障害物を検知し、自動で機械の旋回や走行を減速・停止するというものです。
酒井(満):
従来、ショベル周辺の人やモノを検知してアラートを発するシステムはありましたが、大事に至る前に安全かつスムーズに機械を停止させるというK-EYE PROの革新的な取り組みが、業界を驚かせたと思います
平山:
私たちは、さらにその安全思想を進化させたいと開発を進めてきました。ご存じのように、クルマの自動運転などにおける障害物検知の多くは、赤外線や超音波、ミリ波レーダーなど、照射波の反射から対象物を検知するセンシングシステムが活用されています。しかし、ショベルは平坦な道路とは異なり、人とモノが混在している環境で使用されます。例えば、建設資材やダンプトラックといったモノでも検知してしまいます。そのため、「人のみ」を検知できるシステムの検討・調査を進め、その中でもカメラによる検知システムに強い可能性を感じていました。
酒井(満):
カメラ画像を基盤とした認識システムを探していたところ、物流関係の展示会で、カメラ画像をAIのディープラーニングで処理するレグラス様のシステムに出合いました。

「人のみ」を見分け、ミニショベル特有の狭所地・近接作業にも強みを発揮するOmniEye。2022年5月に開催された「CSPI-EXPO」でも、デモンストレーションが行われた

カメラとAIのシステムにこだわった理由は何ですか?

平山:
照射波の反射を利用するシステムは、人とモノの識別が難しく、RFID(Radio Frequency Identification)システムの場合はタグの装着が必要となります。ただ、17年頃からステレオカメラ+AIで人のみを検知するシステムが出始め、自動車業界でもカメラの活用が活発化するなど、“カメラ画像”を使った「人」のみを確実に区別するシステムが次の手段になると判断しました。
酒井(満):
実際に現場で働く人や通行人は必ずしも直立しているわけではありません。大きな資材を持っていたり、中腰になったり、しゃがんだり、さらに熱中症など何らかの理由で倒れている場合もあり得ます。実際の現場を想定すれば、どんな姿勢をとっていても、即座に人を人として認識しなければ意味がありません。ですから、どうしても実際のカメラ画像と、それを判断するAI認識の組み合わせが不可欠だったのです。
小川:
今回、コベルコ建機様とのアライアンスを追求したOmniEyeは、すでに私たちが重機、フォークリフトなどに搭載していたEagleEyeIIのシステムをさらにブラッシュアップし、小型ショベルに求められる要件を満たすために築き上げたものです。開発過程でコベルコ建機様から求められたベンチマーク要件では、マシン周囲の検知範囲である半径5m・360度内のさまざまな位置に人を配し、立ったり、座ったり、伏せたり、逆立ちまでしてみたり……(笑)、それこそ考え得るあらゆる姿勢での識別が厳しく要求されました。
酒井(将):
レグラスは、カメラやコントロールボックスなどのハードウエアから、AI(ディープラーニング)による検知、機械制御までを一貫して自社開発しています。また、本システムではディープラーニングの演算によく使用される多数のプロセッサコアを持つGPU(Graphics Processing Unit)ではなく、演算処理そのものをデジタル回路としてプログラミングできるFPGA(Field Programmable Gate Array)を採用しました。FPGAはGPUと比較し、低消費電力でありながら並列演算に優れ、カメラ画像処理とAIによる人物検知をシームレスに行い、高い検知性能、リアルタイム性、高信頼性を同時に実現しています。
小川:
私たちは、1999年の設立時からカメラと画像処理システム、センシング技術を追求し、2012年からは自社製品の開発に注力。さらに14年には本格的なAI研究を進め、17年にディープラーニングにもとづく高度なAI検知を実現するプロトタイプを構築しました。
酒井(将):
先ほどもお話があったように、作業現場での人の姿勢はさまざまで、正確な検知は非常に難しいものです。ハードウエアとしてのシステムの最適化だけではなく、大量の作業現場画像を学習することでAI性能を高めてきました。
平山:
コベルコ建機としても、世界に例がない先進的なレグラス様のシステムこそ、即応性が求められる解体や建設現場にピッタリのソリューションだと確信したのです。

搭載イメージ

搭載イメージ
  • 1単眼カメラ(半天球カメラ)

  • 2警告ランプ(スピーカ内蔵)

  • 3コントロールボックス

  • 4液晶モニタ

  • 1単眼カメラ(半天球カメラ)

    ブラケットでボルト固定。装着高さにより検知範囲は伸縮するが、個別の初期設定を不要にするため装着高さはSR/UR機で2,150mm共通を推奨

  • 2警告ランプ(スピーカ内蔵)

    ブラケットでボルト固定。注意エリアで人を検知すると黄色ランプが点灯。危険エリアで人を検知すると赤色ランプが点灯し、警報ブザーが鳴る

  • 3コントロールボックス

    パネル面に磁石で取り付け可能。機械の始動キーと連動して電源ON。任意設定の危険エリア内に人が入ると警報を発報し、赤色ランプ点灯と同時に機械が停止

  • 4液晶モニタ

    パイプの上と下のどちらにも取り付け可能。カメラ映像を鳥瞰画像化して周囲360度を投影。検知範囲は後方240度程度

二人三脚による
スムーズな開発体制

両社のアライアンスによる協働体制はハイピッチで成果を結んだと伺いました。

酒井(満):
19年7月に展示会で知り合い、9月にはデモを実施。翌年2月に先行試作品の納入をしてもらえました。この驚異的なスピードの背景には、レグラス様が以前からゼネコン各社の現場安全施策などにも取り組み、建設業の現場を熟知していたことがあります。まさに「打てば響く」というイメージで、私たちの要件をご理解いただいたことが強力な追い風になりました。
小川:
開発フェーズを大括りにするのではなく、求められる機能単位の小さなサイクルごとに、計画~設計~開発~テストの工程を小刻みに繰り返す姿勢で開発を進めました。そこで得られた成果を一つひとつ両社間で確認しながら積み上げていくことで、ゴールに対するブレや齟齬を生むことなく、結果として全体の開発期間も短縮できたと思います。
平山:
当社の先行開発は、長期的に将来を見据えたものと、1~2年後に旬となる商品を早期に社会実装するという、大きく分けて2つがあります。今回のOmniEyeは後者として、スピードを重視しました。

衝突軽減装置OmniEyeをまずミニショベルに搭載しようと考えたのはなぜですか?

酒井(満):
3t、4t、5tクラスのミニショベルが活躍する現場は、周囲に壁があったり、障害物等も多い都市部の狭小現場がメインです。そのような現場は、周辺作業者とマシンの距離も近く、さらに周囲には作業者だけでなく、一般の歩行者も混在するケースが多いのです。だからこそ、老若男女、身長や体型、衣服や姿勢もさまざまな人を正確に見分け、万一の際にも安全かつスムーズに停止することが求められていました。
平山:
さらに今回は、工場出荷時のオプションではなく、KGSP(Kobelco Global Service Parts)を窓口とした純正アフター専用部品扱いとしました。つまり、クルマでいえばディーラにおけるオプションのように、納車後でもお客様のニーズに即して気軽に追加装備できるわけです。基本的に無加工・無調整のままで、いわゆる「ポン付け」が可能なため脱着も簡単。もちろん、すでにお持ちのSK28~SK55・6型のSR・UR全機種(キャノピ仕様)に装着できます。例えば、マシンを複数台お持ちのお客様やレンタル企業様では、現場ニーズに応じて自在に付け替えるといったご利用も可能になります。

現場ニーズを
的確に捉えた設計思想

具体的なシステム構成や機能について教えてください。

酒井(将):
OmniEyeの基本構成は、魚眼レンズを用いた半天球全方位カメラと画像処理を行うコントロールボックス、HDモニタ、アラートを発するLED積層回転表示灯というシンプルなスタイルになっています。コントロールボックスは、非常にコンパクトな設計で、キャブの右パネル面にマグネットで簡単に取り付けられます。
小川:
カメラは小型で軽量。本体、カメラとも防塵・防水性、耐振性も万全で使用温度も幅広く対応し、過酷な現場環境でも活躍します。
酒井(満):
検知範囲もカメラから半径0.5m~5mの範囲内で1~5mまで、10cm刻みで自由に設定できます。
平山:
通常は認識しにくい日陰や、低照度の環境下でもしっかり人を検知し、モニタ内では四角い枠で囲って表示。その枠が、人の動きにシンクロしてリアルタイムで追尾するのも頼もしい機能です。

3大ポイント

1

カメラが「人」のみを検知
安全補助と効率性を両立

  • 人とモノを判別して「人のみ」を検知して停止する
  • 人とモノの誤検知を減らし、ミニショベル特有の狭所地・近接作業にも強みを発揮
  • RFIDタグや識別用ベストなどは不要。
    機械に近づく人は通行人であってもカメラで検知
2

録画可能・
映像記録機能内蔵

  • 特別なセンサ類を新規設置せずに高精度カメラを採用することで、シンプルなシステムを構成
  • カメラを採用したため、映像記録装置を別途設置しなくても録画機能が備わる
  • 標準同梱のUSB・64GBで約80時間(約2週間)の録画可能。
    大容量USBを使用すれば、最大700時間(約3カ月)対応
3

システムはアドオン装着
1台導入すれば
複数台で付け替え可能映像記録機能内蔵

  • 機械側の改造は基本的に不要。ブラケットのネジ固定と配線作業のみ
  • コベルコの従来機への取り付けも対応済み。お客様所有機にも取り付け可能
  • SK28~SK55・6型のSR・UR全機種に取り付け可能
    (キャノピ仕様のみ。2022年7月現在)
  • システムの付け外しが簡単で別の機械への移設も容易

どこまでも
現場優位の思想を貫く

その他の特長的機能には、どんなものがありますか?

酒井(将):
人物検知以外の特長として、USBメモリにカメラ映像を記録するドライブレコーダー機能が搭載されています。360度の全方位画像をそのまま記録することができます。
平山:
映像記録媒体は汎用性が高いUSBメモリを使用しています。現場での使用を想定した防塵・防水対策も施しており、データ盗難防止のためのロック機能も付いていますので、管理する面でも安心です。
小川:
本システムで画像を認知・判断するのはAIですので、あえて平面パノラマ画像などに変換せず、360度の魚眼画像のままで表示します。これは、画像変換に伴う演算負荷を排除し、高速リアルタイム処理を追求したかったからです。
酒井(将):
さらに、停止後の作業再開についてもリクエストをいただきました。
平山:
実は従来の衝突軽減装置では、センサなどが人を検知して機械を停止後、その人を検知しなくなるとすぐさまマシンが作動。その際にレバーが「走行」や「旋回」のモードになったままだと急に動き出してしまいます。例えば検知した人がその場で転倒したり、しゃがんだりしてセンサが検知しなくなっているだけだとしたら、非常に危険な状況になるのです。
酒井(満):
そこで今回のシステムでは、オペレータが一旦レバーロックを上げ、確認後に再度下ろした時点で初めて作業が再開されるようにしました。つまり、オペレータの「これから作業を再開するぞ!」という意思プロセスを通過しないと再始動しない仕組みになっているのです。幸い、試作や実証実験に伴うモニタをお願いしたオペレータの方々からも、「さらに安心感が高まる」「より作業に専念できる」との評価をいただき、皆様の現場でお役に立てるという確信を深めることができました。
小川:
協働して開発を進めてきた私たちとしても、それは何よりも励みになるお言葉です。
平山:
私たちは、さらにレグラス様とのスクラムを強化し、リアルな現場の声を取り入れたバージョンアップとともに、このソリューションをより大型のショベルにも適用し、安心・安全な現場環境づくりに貢献していきたいと考えています。
酒井(将):
今後とも、最良の価値提供を目指していきますので、ご協力をお願いします。
OmniEye 搭載機

「CSPI-EXPO」に参考出展されたOmniEye 搭載機は、屋内展示でも注目された

  • 太田利之= 取材・文 text by Toshiyuki Ota
  • 田中勝明= 撮影(人物) photographs by Katsuaki Tanaka
  • 岩井康浩= 撮影(CSPI-EXPO) photographs by Yasuhiro Iwai