コベルコ建設機械ニュース

Vol.259Jan.2023

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特集K-DIVE® 始動。遠隔操作の現在地

特集

K-DIVE®始動。

国土交通省がi-Constructionを推進するという業界の流れの中、
誰でも働ける現場」の実現を目指して始まったコベルコ建機のDX戦略。
その中核を担う「K-DIVE®」が2022年12月、ついにローンチされた。
人・重機・現場を常時つなぎ、重機の遠隔操作を可能にする革新的な
現場改善ソリューションの詳細について、新事業推進部の佐伯誠司に話を聞いた。

OUTLINE

Part.1 [K-DIVE® 概要]

次世代の遠隔操作技術で具現化した
「働く人を中心とした建設現場のテレワークシステム」

佐伯誠司

コベルコ建機株式会社
企画本部 新事業推進部 部長

佐伯 誠司

安全面への不安や人口減少といった社会課題などにより、慢性的な人手不足に陥っている建設業界。高年齢化した熟練技能労働者の大量離職を目前に控えながらも、若手就業者の参入がなかなか進まず、経営層の事業継続に対する危機感は日に日に増大している。

そうした深刻な課題を解決すべく、コベルコ建機では2015年よりさまざまなソリューション開発に着手。なかでも柱として取り組み、22年12月にサービス開始を発表したのが、遠隔操作システムと稼働データを用いた現場改善ソリューション「K-DIVE®」だ。新事業推進部の佐伯誠司は、K-DIVE®はこれまでにない3つの新たな価値を建設現場にもたらすと語る。

「まず1つ目が、本質的な安全性の確保です。K-DIVE®を活用すれば、現場から離れた場所にあるコックピットからオペレータが重機を遠隔操作できます。そのため、危険な現場を離れ、オフィスから安全に重機作業を行うことが可能になります。2つ目は、生産性の向上です。1人のオペレータがコックピットに表示される画像を切り替えつつ複数の重機を遠隔操作できるため、少人数でより効率良く作業できます。その上、現場の作業状況のデータをリアルタイムで蓄積しており、人と重機の最適配置などを通じて作業効率の改善に役立てることで、現場の生産性アップを実現できます。そして3つ目は、多様な人材の活用です。遠隔操作なら場所や時間などの制約を受けずにより多くの人が働ける職場環境づくりが図れるため、これまで建設業で働くことが難しかった人材の参画も容易になり、就業者の裾野を拡大できます」

K-DIVE®が便利なのは分かるが、導入・運用のハードルは高そうという印象を抱く方も少なくないかもしれない。しかし、本システムはサブスクリプションモデルでソリューションを提供することにこだわり、コベルコ建機の技術者に加えて、専門知識をもつ会社と協業し、サポートし続ける体制を整えた。システムを売って終わりではないということだ。

「現在は固定ヤードでのサービス提供がメインですが、今後は一般土木の現場にも順次サービスを拡大していきます。将来的にはより効率的な人材活用を目指して、重機とオペレータ、現場をつなぐマッチングサービスの展開も視野に入れています」

K-DIVE®とは

遠隔操作システムと稼働データを用いた現場改善ソリューション

重機の遠隔操作システム

実機搭乗時のような操作性のコックピットから重機を操作。安全快適な場所から現場作業を行うことができる。

ヒト・重機の稼働データ活用

クラウドに蓄積した稼働データが現場の課題を見える化。データベースと専任担当者によるデータ活用サポートで現場を効率化。

K-DIVE®今後のロードマップ

Phase1(2022年12月~)

固定ヤードでの作業

金属スクラップヤード・産廃処理ヤード・土砂ピットなど、固定されたヤードでの重機を遠隔操作。

Phase2

一般土木現場での作業

一般土木現場や造成現場など、工期の決まった現場での重機を遠隔操作。

Phase3

重機・オペレータ・
現場のマッチングサービス

遠隔オペレータと施工管理者をつなぐネットワークシステムを構築。また、コックピットをバーチャル教習所として活用するなど、より効率的な人材育成をサポートし、就業者の裾野拡大にも貢献。

Part.2 [実証試験]

株式会社神戸製鋼所 加古川製鉄所

神戸製鋼所とタッグを組み、K-DIVE®を検証。
グループシナジーで実用化への道を探る

前川智史さん

株式会社神戸製鋼所
鉄鋼アルミ事業部門
加古川製鉄所 計画管理部
DX推進グループ長

前川 智史さん

山内祥裕さん

株式会社神戸製鋼所
鉄鋼アルミ事業部門
加古川製鉄所 計画管理部
DX推進グループ

山内 祥裕さん

株式会社神戸製鋼所の鉄鋼アルミ事業部門である加古川製鉄所は、鉄鉱石から鉄を取り出すところから、最終製品までを手がける銑鋼一貫製鉄所。自動車や家電、船やビル、橋梁のケーブルなどに使われる鉄鋼等を生産している。同製鉄所では現在、重機の遠隔操作システムである「K-DIVE®」の実証試験を自社ヤード内で実施中だ。

「2019年に参画への検討を始め、21年9月から重機を遠隔操作しながら作業する実証試験をスタートさせました」と話すのは、神戸製鋼所DX推進グループ長の前川智史さん。

加古川製鉄所では、常に数十台の重機が稼働している。主に粗鋼を生産する際に発生する副産物のスラグやダストなどの運搬といった作業に使用しているが、将来的にその作業を担う重機オペレータが不足することへの懸念から、K-DIVE®の実証試験に参画したという。

カメラ映像を見ながらの重機遠隔操作

K-DIVE®では、重機や現場周辺に多数設置されたカメラの映像を見ながら重機を遠隔操作する。1つ先の作業に当たる視界をサイドモニタに映すなど、表示する映像はオペレータのリクエストにより自由に選択することが可能だ

「少子高齢化を背景に、労働力不足が深刻な社会問題となっています。現状、加古川製鉄所では必要なオペレータの数を確保できていますが、今後もその状態が続くとは限りません。製鉄所の高炉操業は、輸送など関連する業務を含め24時間365日の稼働を前提としており、この先オペレータ不足が深刻化すると、操業への影響も懸念されるのです。そこで、将来を見据えた人材確保策の一環として、今回の実証試験にチャレンジしました。重機を遠隔操作できる環境を整備し、作業環境の改善を図ることで、就業者にとって魅力的な職場になるのではと考えたのです」(前川さん)

そのリアルな感覚にオペレータの評価も上々。
実証試験も次なる段階へ

牧野篤さん

三輪運輸工業のオペレータ、牧野篤さん。「重機を遠隔操作できれば、遠方の現場などは移動時間がなくなるのでとても助かりますね」

K-DIVE®の実証試験には、加古川製鉄所内での重機作業を担っている三輪運輸工業株式会社も参画している。神戸製鋼所側でK-DIVE®搭載の重機における遠隔操作の作業内容を選定し、実際の作業を三輪運輸工業のオペレータが担当するという体制だ。一方、コベルコ建機は、実作業で発覚した課題の解決策を提示する役割を担う。

「実証試験の開始後、これまでにさまざまな問題があったものの、その都度柔軟に対応してもらっています」と話すのは、神戸製鋼所DX推進グループの山内祥裕さんだ。

「試験開始当初、モニタを見ながらの掘削作業は、搭乗時に比べて視認性が落ちるという指摘がオペレータからありました。特に掘削面の奥行き感を把握しにくいとコベルコ建機の技術者に伝えたところ、バケット先端から下に投影した掘削面との交点をマーカ表示する機能を開発。オペレータがバケットと掘削面の距離を把握しやすくすることで、モニタ上でも奥行きを感じ取れる工夫を施してもらいました」

遠隔操作を実際に体験しているオペレータは、K-DIVE®に対してどんな印象を抱いているのか。コックピットでの操作を担当する三輪運輸工業の牧野篤さんにも意見を聞いた。

「重機操作は感覚的な部分が重要で、モニタを見ながらでは絶対に無理だろうと思っていたのですが、動かした瞬間からその考えを改めました。作業に応じてレバーが重くなるとともに、シートが傾いたり振動したりするなど、リアルな感覚には驚きました。エンジン音も臨場感があります。奥行きの把握も、マーカ表示に慣れればそう問題にはなりません」

実用化されれば、炎天下や極寒で仕事をする必要がなくなる上に、万が一の事故の際も、オペレータは現場にいないので安全が保証されるなど、仕事環境は劇的に改善する。牧野さんは、「これなら若い人も重機オペレータを職業の選択肢の1つにしてくれるのではないか」と語る。

実証試験を経て、これからは遠隔操作時でも実機搭乗時と変わらぬ生産性を発揮できるかの検証に入るという。それが実証されれば「K-DIVE®活用へのたしかな道が拓かれるはず」と神戸製鋼所の前川さん、山内さんは期待を寄せている。

遠隔操作されるコベルコ建機製重機

遠隔操作されるコベルコ建機製重機は、バケットを装着した35tクラス。鉄の生産時に発生するスラグやダストなどを集積するピット内で、それらを1カ所に集める作業に従事していた。無人の重機が動いているため、トラックのドライバーが驚くこともあるという

Part.3 [導入事例]

株式会社鈴木商会

オペレータの人材不足に対応すべく、
北海道では初めてK-DIVE®を先行導入

加藤弥さん

株式会社鈴木商会
管理本部 情報システム部
執行役員部長

加藤 弥さん

株式会社鈴木商会は、室蘭市にて1941年に創立された合名会社鈴木商会を前身とし、53年に創立された。現在は、札幌エリアを中心に北海道各地に拠点を構え、鉄・非鉄や家電、自動車などの資源リサイクル事業を展開している。

2022年9月、同社は重機を遠隔操作する「K-DIVE®」の先行導入を決定した。その背景にあったのは、オペレータの人材不足という問題だ。情報システム部の加藤弥さんは「札幌近郊なら人もある程度集まるものの、そこから外れれば外れるほど重機オペレータの確保が難しいという事情がある」と話す。

「加えて、オペレータの高齢化も進んでいます。この課題をなんとかしなければいけないと考えていたところでK-DIVE®の存在を知りました。重機の遠隔操作が可能になれば、1人で複数台の重機を動かすことができるため、少ない人員でも生産性を上げられるのではないかと考えてコベルコ建機に相談。K-DIVE®の体験施設を見学してそのポテンシャルを確信し、導入へと至りました」(加藤さん)

無人重機による鉄スクラップ切断

ヤード内にあるコックピットからの遠隔操作により、無人の重機が鉄スクラップを切断中。今後は、マグネットやグラップルを装着しての作業や、コックピットから遠く離れた現場にある重機の遠隔操作も試す予定だ

さらに、重機の稼働率を算出できるのも、K-DIVE®を導入した大きな理由の1つだという。同社では、手書きの日報に重機の稼働時間を記録しているが、それでは待ち時間も稼働時間として計算されてしまいがち。そのため、実際の稼働率を把握できない状況が続いていた。

「人と重機の適材適所な配置を実現するには、正確な稼働時間を知る必要があります。K-DIVE®にはデータ活用の面でも大いに期待を寄せています」

鈴木商会は新しい技術の活用に積極的で、例えばドローンを使った在庫管理をいち早く実用化している。K-DIVE®の先行導入も、北海道初の試みとなった。

オペレータは安全性や快適性などを高評価。
生産性アップに向けた稼働データの蓄積も推進中

現在、K-DIVE®を搭載した重機は、鈴木商会の苫小牧事業所で稼働中だ。アタッチメントに金属切断機のラバンティシャーを装着し、事務所内にあるコックピットからの遠隔操作により、長大な鉄スクラップを規定サイズへと切断する作業に従事している。

「必要な機材やアンテナの設置位置に関するアドバイスなど、コベルコ建機のきめ細やかなバックアップもあり、導入作業は思ったよりもスムーズに進んだ」と加藤さんはいう。

「納車1週間後には、遠隔操作による作業をスタートすることができました。2週間後に社内でお披露目した際には、うちの事業部にも導入してほしいという声が、数多くのオペレータから寄せられました」(加藤さん)

鈴木商会に在籍する多くのオペレータのなかでも、最初にK-DIVE®のコックピットに座る役割を担ったのが、入社18年になる塩浦和行さんだ。

「目視での作業と比べて奥行きを把握しづらいので、初めのうちは切断物に対してアタッチメントをどう当てるかといった基本動作に苦労しました。それでも、2週間を過ぎた頃には感覚も分かってきて、今ではなんの違和感もなく切断作業をしています」

ヘルメットはもちろん「極端にいえば作業着も不要」だと塩浦さん。重機に搭乗しての作業は閉鎖されたキャブ内で行わざるを得ないが、遠隔操作ではより広い室内での作業になるため快適度は段違いだと語る。

モニタの様子

モニタには、正面やサイド、現場を俯瞰で映した映像も表示。「経験を積めばモニタを見ながらでも、搭乗時と変わらぬ早さで作業できる」とオペレータの塩浦和行さんは語る

遠隔操作ルーム

遠隔操作は、閉鎖されたキャブとは違い快適な室内で行われる

オペレータの塩浦和行さん

「K-DIVE®は新人オペレータの教育ツールとしても使えると思います」(塩浦さん)

「K-DIVE®を導入することで、重機作業の安全性も向上します。例えば、鉄スクラップの現場ならではの事故で、切断時に破片が飛んでフロントガラスを直撃するといったケースがあるのですが、遠隔操作ならオペレータは運転席にいないため、怪我の心配もありません」

導入後、数カ月が経った現在、重機の稼働データも着々と蓄積。アームの動いている時間から重機の正確な稼働時間を検証し、より効率的な重機活用への道筋も見え始めた。

「将来的には札幌本社の事務所にコックピットを設置し、そこから地方事業所の重機を遠隔操作することも考えています」(加藤さん)

K-DIVE®という翼を得て、鈴木商会の夢は大きく羽ばたこうとしている。

鈴木商会は、業界のイメージアップにも熱心に取り組んでいる。K-DIVE®の導入時にはマスコミ向けのプレス発表会を実施した。

囲み取材の様子

囲み取材の様子

駒谷僚さん

写真右が鈴木商会代表取締役社長の駒谷僚さん

  • 山田高弘= 取材・文 text by Takahiro Yamada
  • 三浦泰章= 撮影 photographs by Yasuaki Miura