コベルコ建設機械ニュース

Vol.260Apr.2023

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KOBELCO TOPICS TK750GLB 開発ストーリー
開発ストーリー

シリーズ最高揚程を実現した
ロングブーム仕様機
『TK750GLB』開発ストーリー

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CK230SR

今回のストーリーは矢印

TK750GLB
TK-Gシリーズならではのコンパクト&タフボディを継承しつつ、
最長35mの揚程能力を有するロングブーム仕様機。
エンジンのリパワリングも実施し、最新の排ガス規制に対応している。
  • 橋本 奨 マーケティング事業本部
    クレーン営業本部
    クレーン商品企画部
    クレーン商品企画グループ


    2009年入社。開発要件のとりまとめなどを担当。「今回の開発では、ベストを尽くしたもののすべての希望要件を実現できたわけではありません。次の製品開発のタイミングではどのようにそれらを実現させるか、今から準備していきます」

  • 久保 貴史 技術開発本部
    クレーン開発部
    クレーンアタッチ開発グループ


    2016年入社。ロングブーム開発、機種開発の主担当も兼任。「プロダクト開発の初期から参画し、市場変化や顧客要望のヒアリング、要件作りや成立性の確認にも携わることで、当事者意識をもって開発に取り組むことができました」

  • 臼本 翔汰 技術開発本部
    クレーン開発部
    クレーン開発グループ


    2014年入社。TK-Gシリーズのエンジンリパワリングに伴うパワープラント設計と制御開発を担当。「エンジンの排出ガス性能がアップしている影響で制御設計が複雑になりましたが、その分だけ多くの知見を吸収することができました」

  • 兵埜 拓也 技術開発本部
    クレーン開発部
    クレーン要素開発グループ


    2014年入社。制御システム開発における電気回路設計、制御ソフトウエアの設計・評価を担当。「本開発を通じてテレスコピックとラチス、2つのクローラクレーンにおける制御システムの違いをより深く理解できました」

  • 梁 柏輝(りょう はくき) 技術開発本部
    クレーン開発部
    テレスコクレーン開発グループ


    2018年入社。TK-Gシリーズのエンジンリパワリングにおける開発プロジェクトをマネージメント。「新たなTK-Gシリーズは、これから多くのお客様に機械の性能や使い勝手を検証していただけるはずで、今からドキドキしています」

  • 大久保 正基 技術開発本部
    クレーン開発部
    クレーン要素開発グループ


    2016年入社。過負荷防止装置のソフトウエア開発を担当。「ベンチ環境での事前検証で、仕様だけでは分からない実際の機械の動きを確認し、ソフトウエアへの理解を深めるとともに、技術者としてのレベルアップができたと思います」

現場到着時の組立作業が比較的容易なテレスコピックブームを搭載し、狭小地での作業に最適なコンパクトボディと頑丈な構造を特色とするTK-Gシリーズは、2017年の発売以来、多くのお客様から高く評価され、全国各地の基礎土木の現場で活躍している。

23年、そのラインナップに新たなモデルが加わった。それがロングブーム仕様のTK750GLBだ。TK-Gシリーズならではの設計思想であるコンパクト&タフボディを継承しつつ、ブームを最長35mまで延長。伝統の4プレートスティフナーボックスブーム構造で、TK品質の強靭さも維持している。

標準機並の強度を誇る
長尺ブームを搭載

20年に開発されたショートブームのTK550GSBは、低空頭空間での作業に加えてハンマーグラブ作業を可能にし、高評価を獲得した。この実績により、本体部はそのままにブーム部を変更することで、TK-Gシリーズの仕事領域をより広げていくというプロジェクトの方向性が有望視されたと話すのは、クレーン商品企画部の橋本奨だ。

「伸縮式ブームのクローラクレーンは30mのブーム長というのが一般的です。そこに最長35mのロングブーム仕様機という製品を投入すれば、基礎工事のさまざまな工法において、できることが大幅に広がります」

そのロングブーム開発を担ったのは、クレーンアタッチ開発グループの久保貴史。コンセプトは、単にブームを長尺化するだけではなく、その強度剛性は標準機であるTK750G同様のレベルを実現することだったと話す。

「まずは、4段階ブームそれぞれの長さに応じて取り付けた補強部材の位置や形状の最適化を図りました。さらに、高張力鋼板で構成されたブーム各段の差込長さを調整することで、剛性をさらに高め、TKシリーズ最高の揚程を実現しています」

長尺ブームの強度を確保するために補強するとブームの重量が増え、その分だけつり上げられる荷の重量が減ってしまう。そのため、「実機での強度確認試験を実施し、追加補強を施しながらつり上げ能力の見直しと、細かな能力調整を最後まで行いました」と久保は語る。

「商品企画からは、もう少しつり上げの能力を高められないかというリクエストをしましたが、開発部門としてもこれ以上譲れない強度レベルがある。お客様により喜ばれる機械を届けたいという想いは同じでも要望は背反するなか、最終的には強度とつり上げ能力のバランスが取れた、ベストな仕様を選択できたと思っています」(橋本)

シリーズ全機種の
エンジンリパワリングも遂行

TK750GLBの新規開発とともに、今回のプロジェクトではTK-Gシリーズ全機種でのエンジンリパワリングも行われた。排ガス規制値のレベルが大きく変わったためで、それに伴い浄化装置の搭載されたエンジンを採用。パワープラント設計と制御開発を手がけたクレーン開発グループの臼本翔汰は、その難しさをこう語る。

「今回搭載したエンジンについては、組み込まれている浄化装置の制御を建設機械にマッチさせる作り込みに苦労しました。しかも、機械のダウンタイムをなるべく減らしつつ浄化するという制御にこだわったため、私が担当するエンジン側のシステムだけでなく、機械側のソフトウエアにもそのミッションの具現化をお願いしました」

求められたのは、作業を極力中断させずに排ガスをしっかり浄化できる制御システム。ソフトウエア開発を担当したクレーン要素開発グループの兵埜拓也がその課題に取り組んだ。

「クレーン作業中でも排ガスの浄化を促すことを基本に、可能な限り作業を継続しながら浄化を進める制御システムを設計しました。さらに作業を止めざるを得ない状況でも、いかに少ない時間で復旧させるかというところに主眼を置いて構築しています」

実は、ほかのエンジンを搭載したクローラクレーンですでに実績のある排ガス浄化の制御システムがあり、その制御システムを横展開するという選択肢もあった。しかし、作業を止めずに浄化できることは機械の強みになるはずというこだわりを追求し、今回の新たな制御システム開発へとつながった。

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TK750GLBに続く
新たな機種開発の可能性も

限られた時間とマンパワーのなかで、エンジンリパワリングは円滑に進められたが、それを可能にしたキーマンとして、テレスコクレーン開発グループの梁柏輝の存在は欠かせない。

「私の役割は、商品企画と開発グループの間に立ち、プロジェクトの進行を牽引することです。また生産や調達、試作試験、品証、サービスなど、関係部署と調整や折衝にも注力するなど、縁の下の力持ちとして貢献できたと思っています」

一方、クレーン要素開発グループの大久保正基は主に機械の安全面、過負荷防止装置のソフトウエア開発を担当。

「ベースマシンと同時にソフトウエアもほかのTK-Gシリーズと共通化できるかがキーでした。そのソフトウエアの成立性を検証するのが私のミッションです。工場内のベンチ環境で行われた事前検証では、機械の挙動を確認。結果的に過負荷防止装置のソフトウエアの変更は不要となりましたが、ソフトウエアへの理解を深める大きな知見を得ることができました」

今回の開発プロジェクトでは、ロングブーム、エンジンリパワリングだけではなく、お客様の使い方を広げるという観点からさまざまな改良・改善を実施している。例えば、キャブの視界性の改善やフリーフォールレスのサードウインチ搭載、ブームトップの補強によりワンクラス上のオーガを使えるようにしたこともその1つだ。現在、これまでラフテレーンクレーンで施工していた基礎工事をテレスコピッククレーンに変える事例が増加している。そのため、基礎工事の多様なニーズに対応するTK750GLBの登場は、業界から大いに歓迎を受けるだろう。今後も現場からの声に応える形で、TK-Gシリーズのラインナップはますます広がっていくはずだ。

山田高広= 取材・文 那須亮太= 撮影 text by Takahiro Yamada/photographs by Ryota Nasu