コベルコ建設機械ニュース

Vol.262Nov.2023

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特集環境リサイクル機械としての自動車解体機の可能性

コベルコ建機の視座

時代の要請に応える
自動車解体機の現状、そして今後

自動車解体機の開発から約半世紀。現在の事業戦略や今後の展望について、
環境特機開発部の榮田昭彦と商品企画部の三嶋康平に、開発と営業それぞれの立場から話を聞いた。

榮田 昭彦

環境特機開発部

榮田 昭彦

Eita Akihiko

三嶋 康平

商品企画部

三嶋 康平

Kohei Mishima

現在も継承される
「ユーザー現場主義」の開発姿勢

環境リサイクル機械の開発とは、ベースとなるショベルの用途を拡大していくことにほかならない。その際、よくよく考慮しなければならないのが、拡大すべき用途の方向性、いわゆる開発コンセプトだ。例えばメーカ目線でやみくもに新機能を追加しても、顧客にとって的外れなものでは意味がない。

1979年、コベルコ建機による世界で初めて生み出された自動車解体機の開発では、沖縄県のリサイクル業者である拓南商事様がパートナーとなり、現場の声を開発にフィードバック。お客様目線を製品づくりに取り込むことで実用に足る機械の完成にこぎ着けた。1991年に開発されたエンジン解体機も同様だ。リサイクル事業を手がける業者と協業し、エンジンからアルミを回収する専用マシンとしてエンジン解体機を共同開発。その際に完成した開閉式クランプアームは、後にマルチ解体機へと装備されるものの原型になった。

「実際に現場を見て、声を直に聞くことをしなければ、課題を解決する機械をつくり出すことはできません」とは、環境特機開発部の榮田昭彦。お客様、なかでもその業界のオピニオンリーダー的な企業と一緒になって開発していくことが重要だと話す。

「お客様の要望を聞いて、繰り返し改善しながら粘り強くつくり上げていく。そうして初めて、本当に現場で使える機械を完成させることが可能です」

現在、2018年にモデルチェンジした有線の電動仕様機が人気となっている。その開発に際しても、お客様からの声をリサーチするのに時間をかけてじっくり取り組んだそう。顧客ファーストをモットーとするそうした姿勢は、コベルコ建機ならではのDNAとして今も開発陣1人ひとりにしっかりと受け継がれている。

総合力で勝負する組織体制を実現

2023年4月の組織改編により、国内販売を担うコベルコ建機日本株式会社に新しくマーケティング部門が立ち上がった。同部門では、土木業向けの汎用機のほかに、自動車解体機を含む環境リサイクル機械も取り扱う。この組織変更が意味するところは、これまで単独で動いていた環境リサイクル機械に関する営業業務を全社的な活動として広げていこうということの表明だ。長く自動車解体機の営業に携わってきた三嶋康平は、そのメリットをこう語る。

「部門を超えていろいろな人が環境リサイクル機械に関わるようになったため、営業面での可能性は限りなく広がると思います。その傾向は開発部門でも同様で、以前は通常の汎用ショベルと環境建機で扱う組織がわかれていましたが今はそうした垣根はなく、例えば自動車解体機に搭載するソフトウエア開発などのものづくりで、企業としての総合力を存分に発揮できる体制が整っています」

現在、コベルコ建機の自動車(マルチ)解体機は、使用環境に合わせて選べる13t、20t、23tの3機種6仕様を揃え、さらには有線の電動仕様機もラインナップしている。毎年の売上台数は安定していて、国内シェアの約7割をコベルコ建機製の自動車解体機が占めている。そうしたたしかな実績は、今回の組織変更を通じてさらに盤石なものになるはずだ。

将来を見据え、海外展開にも注力

現在、わが国における使用済み自動車の発生台数は年間300万台強と、10年前に比べて約10%減少している。少子高齢化や人口減少、最近になって顕著になっている若者の車離れ、カーシェアリングの普及などを考えると、この数字が増加に向かう可能性は低いと言わざるを得ない。現在は好調な自動車解体機の国内需要だが、2030年以降は大きく減少する可能性も取りざたされている。

こうした現状に対する打開策として、コベルコ建機では2022年4月から海外部に環境営業グループを発足。専門部隊で海外展開を加速させるという事業戦略に打って出た。

「コベルコ建機では環境リサイクル機械、なかでも自動車解体機の海外展開を10年ほど前から進めてきました。例えば、中国では2014年から自動車解体機の現地生産を開始し、販売台数は着実に増えています。さらに、欧米先進国などへの展開も進めており、海外で多数の販売実績があります」(三嶋)

海外での認知度が高まれば、さらに飛躍できる製品になると社内でも考えられていた自動車解体機。今回、海外専門の営業部隊を新たに設けることで、アジアや欧米諸国といった地域への販売活動にも良い影響を与えるはずだ。

「アジア、欧米での需要が徐々に広がっているという声も聞いています。現地のニーズをしっかりとキャッチし、海外での普及をさらに広げていきたいですね」(榮田)

自動車解体機が海外の工場でも当たり前のように稼働する日を目指すコベルコ建機の挑戦は、新たなステージを迎えようとしている。

使用済み自動車リサイクル
~一般的な作業フロー~

使用済み自動車リサイクルフロー

コベルコ建機のノウハウが詰まった自動車(マルチ)解体機

自動車(マルチ)解体機の詳細
  • 山田高弘= 取材・文 text by Takahiro Yamada
  • 木下裕介= 撮影 photographs by Yusuke Kinosita