「K-DIVEⓇ」は、建設業界の未来を切り開く先進ソリューションとして、
さまざまな現場でその導入が急速に広がっている。
単なる技術革新にとどまらず、業界全体の新しいスタンダードとしてさらなる可能性を秘める、K-DIVEⓇの今を検証する。
コベルコ建機は、「誰でも働ける現場へ KOBELCO DXソリューション」をテーマに、建設業界の未来を見据えたロードマップを策定し、その実現に向けて各種取り組みを推進している。なかでも重要な役割を果たすのが、建設機械の遠隔操作システムと稼働データを用いた現場改善ソリューション「K-DIVEⓇ」だ。
K-DIVEⓇは重機の遠隔操作システムと、操縦履歴・遠隔重機データを活用することで、人・重機・現場を常時つなぎ、建設現場のDXを可能にすることで、従来の建設業の労働環境を大きく変えることを目指している。
K-DIVEⓇは国土交通省が掲げる「i-Construction2.0」の取り組みを推し進める大きな一助となるソリューションだが、目指す目的は省人化、無人化ではない。省人化や無人化はあくまでも現場の安全性を高め、働く環境の魅力を引き上げるための手段に過ぎないのだ。
K-DIVEⓇの本質は、遠隔操作による無人化そのものにあるのではなく、多様なバックグラウンドをもつ人材が、場所や時間の制約から自由になって活躍できる環境を提供することにある。あくまでも「人」を中心に据えた建設現場の変革に重きを置いているのだ。その結果、危険な作業環境での労働リスクを軽減し、業界の課題である労働者不足の解消にも少なからず寄与する。現場環境が変わることは組織の活性化を促し、経営効率の向上にもつながる。
また、デジタル技術を駆使して現場データをリアルタイムで収集・分析することで、作業の最適化や機器のメンテナンスを効率化し、生産性の向上も実現する。
最終的にはK-DIVEⓇを通じて、建設現場での働き方や作業プロセスの根本的な変革を実現し、お客様とともに持続可能な未来を創造することが、コベルコ建機の目指すゴールだ。
K-DIVEⓇの新しいロゴ
コックピットから遠隔の現場へ空間を超え、次々に飛び込んで作業するという“DIVE”に込められたメッセージをアイコンで表現。
重機に関わりがない方が見ても馴染みやすいよう、遊び心を加えた躍動感のあるデザインを採用した。
2022年12月にサービスが開始されてから約2年が経過し、K-DIVEⓇが目指す未来に共感するユーザやパートナーの輪は、確実に広がっている。コベルコ建機は、これからも遠隔操作技術が業界内で「当たり前」となる日常へと進むことを見据え、さらなる普及を目指す。その一環として、K-DIVEⓇのロゴマークやキービジュアルを刷新し、メッセージを強化した。
「さあ遠隔現場へ、つぎつぎと。―遠隔施工のある日常を、K-DIVEⓇで。―」という新たなキーメッセージは、K-DIVEⓇ事業が拡大期を迎えたことを象徴している。
遠隔操作による施工が建設現場の新たな標準として確立されつつある今、K-DIVEⓇは業界に変革をもたらす未来へ向けて、確実な一歩を踏み出したといえるだろう。
奈良県赤谷地区における土砂災害対策工事。現場までは大阪から2時間半かかる山中だったが、「K-DIVEⓇ」の導入によりオペレータの移動時間をゼロにでき、その分をほかの作業時間として活用できた。
K-DIVEⓇは、サービス開始当初は固定された特定の作業現場に限定して導入されていたが、現在では多様な現場で遠隔操作が広く実施され、その有効性が実証されている。
例えば、2023年6月から10月にかけて実施された奈良県の赤谷地区における土砂災害対策工事がある。この現場は、2011年9月に発生した紀伊水害による深層崩壊で大きな被害を受けた場所であり、斜面の再崩壊が繰り返されるリスクがあるため、特に出水期には施工の安全性が課題となっていた。鹿島建設が国土交通省近畿地方整備局から受注したこの大型土木工事にK-DIVEⓇを活用した無人化施工が採用され、安全かつ効率的な作業で優れた実績を上げた。施工を担当したのは、大阪を拠点とする建設会社の冨島建設だ。同社は他メーカの重機をメインに所有していたが、「コベルコ建機のK-DIVEⓇを自社で試したい」という意向から自らこの技術の導入を申し出たことで、今回の土木工事への活用が実現した。
現場で使用されたのは20tクラスのコベルコ建機製ショベル。冨島建設の本社(大阪市)から約70km離れた現場まで専用の光回線で接続されたコックピットを通じて、掘削や積み込み、整地作業、法面成形などを実施した。
遠隔操作について、オペレータは「実際に重機に乗って作業しているかのような臨場感があり、従来のリモコン操作による無人化施工とは比べものにならない生産性を感じた」と評価している。さらに、通信における遅延もなく、現場でのリアルな操作に匹敵する高い作業効率を実現したという。
このK-DIVEⓇを活用した無人化施工の成果により、本工事は令和6年度の「日本建設機械施工大賞」で「大賞部門 優秀賞」の受賞に加え、「建設技術展2023近畿」の「2023年度インフラDX優秀技術賞」にも輝いている。国も動き出し、本年4月には国土交通省から2040年度までに建設現場のオートメーション化を実現する行動計画「i-Construction 2.0」が発表された。10月には「i-Construction 2.0」の主要施策の1つである「建設施工のオートメーション化」(自動施工、遠隔施工、ICT施工)を対象に、2024年度から28年度までの5年間を期間とするロードマップ案が提示されるなど、K-DIVEⓇが土木工事の新たなスタンダードとなる日も近い。これからも、より多くの土木工事でK-DIVEⓇが活用され、現場に変革をもたらしていくだろう。
足場が悪く、ほこりも多い砕石ヤードでは、事故リスクの軽減や作業に当たるオペレータの健康面への配慮から「K-DIVEⓇ」に対するニーズが高い。
島根県大田市を拠点に、土木建設や建物解体、産業廃棄物の中間処理などを展開する株式会社山﨑組は、2021 年に創業100周年を迎えた。同社が働き方改革やそれによる企業価値を高めることで、社員のチャレンジやリクルーティングに役立てたいと考え、導入を決定したのがコベルコ建機のK-DIVEⓇだ。
K-DIVEⓇを搭載した20tクラスのショベルは、山﨑組の事務所に隣接する再生砕石プラントで活躍しており、解体現場から運ばれてきたコンクリートガラをクラッシャーに遠隔操作で投入する作業が行われている。
この遠隔操作を担当しているのは、これまでにリアルな重機操作の経験がなかった女性オペレータだ。彼女が事務所内に設置されたK-DIVEⓇのコックピットに座って重機を遠隔操作する作業風景が全国のテレビ放送で紹介されると、業界内外で大きな反響を呼び起こした。テレビ放映後、山﨑組には多くの問い合わせが寄せられ、特に新卒の高校生や中途採用を希望する大学卒の応募が急増した。また、全国各地の建設会社でもこの放送を見た若い女性がオペレータ職に興味を持ち、女性応募者の増加が顕著に見られるようになった。山﨑組でのK-DIVEⓇによるこうした成功事例は、単に生産性や作業効率の向上にとどまらず、建設業界全体における女性の労働力活躍の新たなモデルケースとなっている。
さらに、事務仕事と重機オペレータを兼任する働き方が、女性のみならず幅広い世代にとって魅力的なキャリアの選択肢となりつつある。このように、K-DIVEⓇの導入は、従来の建設業界の働き方や雇用の在り方に変革をもたらしており、企業が人材を確保するための新たなアプローチとして注目されている。特に女性の活躍が少ないとされていた建設業界において、山﨑組の事例は、K-DIVEⓇが女性労働者の新しい可能性を切り開き、業界に波及効果をもたらした好例といえる。
山﨑組のような地域に根差した企業において、労働力の多様化や働き方の柔軟性を推進する手段として、K-DIVEⓇの技術は今後ますます活用されていくことだろう。
金属リサイクルの分野でもコベルコ建機の「K-DIVEⓇ」が活躍。
将来的には遠隔操作と自動運転を切り替えながら1人のオペレータが複数台の重機を使って作業することも視野に入れているという。
異なる現場でそれぞれに異なる作業に従事する2台の重機を切り替えながら稼働させ、生産性を向上。コックピットのシートは、重機の体勢に合わせて動くなど、リアルな感覚で作業可能だ。
リサイクル業界でもK-DIVEⓇの活躍が目立っている。愛知県名古屋市を拠点にリサイクル事業を展開する株式会社アビヅでは、金属リサイクルの現場においてK-DIVEⓇを導入し、事務所から約200m離れたスクラップローダーを遠隔操作している。K-DIVEⓇの「働く人を中心に据えた現場のテレワークシステム」というコンセプトに強く共感するとともに、3K(きつい、汚い、危険)といわれた時代のイメージを最新技術の導入で払拭し、人手不足の解消につなげたいとの思いから、いち早く導入に踏み切ったという。
一方、鹿児島県の永田重機土木では、異なる現場にある2台の重機を1人のオペレータが遠隔操作で稼働させるという理想的な活用法を採用している。産業廃棄物を処分場の焼却炉に投入する重機と、リサイクル製品をストック場でトラックに積み込む重機の両方を、事務所から操作している。以前は、ストック場での作業が必要になるたびに処分場の重機を従業員が乗って移動させていたが、K-DIVEⓇの導入によりその移動時間が削減され、作業効率が大幅に向上したという。
K-DIVEⓇの操作を担当している女性オペレータは、「実際に機械のコックピットにいるような感覚で作業でき、臭いや日差しなど、現場特有の不快さから解放されて助かっている」と高く評価している。また、ケガのリスクもなくなり、安全面でのメリットも大きい。「ヘルメットをかぶらなくていいし、髪型や服装を気にせずに済む」といった点での利便性にも言及している。
K-DIVEⓇは、足場の悪い解体工事の現場や、機械化が進む林業分野などでも安全面の配慮から導入が期待されており、建設業界全体に広がる可能性を持つソリューションとして、今後の展開が見込まれている。
K-DIVEⓇの導入が多様な業種で進展するなか、特に注目すべきは機能面での急速な進化だ。従来、画面操作において奥行き感が把握しにくいという課題があったが、これに対応すべく広島大学との共同研究により、デジタル技術を用いた爪先位置のガイダンス機能が開発されている。これにより、作業の精度が向上し、ユーザ体験の質が一段と高まるだろう。さらに、重機の挙動特性を、よりリアルに再現するシミュレータ機能も開発中であり、操作訓練の効率化と技術の向上が一層促進される、K-DIVEⓇならではの付加価値がさらに際立つことが期待される。
また、コベルコ建機は自動運転技術の開発にも注力しており、遠隔操作と自動運転の組み合わせにより、さらに大きな生産効率の向上を目指している。
2023年7月には、国土交通省が実施した「建設機械施工の自動化・遠隔化技術に係る現場検証」にコベルコ建機と安藤ハザマが共同で参画。K-DIVEⓇのコックピットから遠隔操作と自動運転の切り替えを行いながら複数の重機を同時に稼働させる技術が実証された。本成果は、K-DIVEⓇの技術が多様な現場での自動運転活用に大きく貢献することを示すものであり、建設業界における自動化の推進において重要な役割を果たすことが証明されたといえる。
この技術的な成功をもとに、コベルコ建機は今後、K-DIVEⓇのさらなる普及と拡張を進め、より多様な作業現場への対応力を強化していく。K-DIVEⓇは、建設業における働き方改革と施工技術の進化に不可欠な存在となり、今後も業界全体の発展に大きく貢献していくことは確実だろう。