コベルコ建設機械ニュース

Vol.242Jul.2018

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特集

日々の見守りを基盤に、トラブルを未然に予測・予防
コベルコ建機、
稼働機管理システム
のバリュー

日々、現場の第一線で活躍するショベルやクレーンは、常に万全のコンディションを保ち、
十分な働きをキープしておきたい。というのも、万一のトラブルは作業の停止や工期の遅れなどを招き、
経済的損失だけでなく、企業が長年培ってきた信頼や実績にまで影響を与えかねない。
そこで、コベルコ建機はIoTの活用で常に機械を見守り、トラブルの兆しを未然にチェック。
こうした先見的な取り組みによって、現場の“稼働を止めない”システムを提供している。

「全国のモニターによる評価段階から開発に参加し、実際の現場のリアルなショベルの使われ方をヒントにしながら、システムの精度アップを進めました」

中川智廣
『KSCAN』開発者
ICT推進部
情報活用推進グループ

「トラブルの解決方法は各種マニュアルや、電話サポートなどさまざまな方法がありますが、今後はトラブルシューティングに役立つポータルサイトを築きたいですね」

平手孝昌
『KCROSS』開発者
要素開発部
電機制御系開発グループ

「稼働機管理の黎明期から建機のIoT化を見守ってきました。これからも継続して、お客様目線を大切にしたシステムやサービスのあり方を、追求していきたいですね」

村田秀彦
ファシリテーター
営業促進部部長

「GPS情報のおかげで、お客様訪問の効率化が加速されました。機械の状況を数値データに基づいた適切な分析をタブレットで示して、お客様の理解を深めています」

今泉 光
『MERiT』『KSCAN』活用者
西日本コベルコ建機(株)
九州支社福岡工場

稼働機管理は、未来を拓く

今回、ショベルの稼働機管理システムである『MERiT(メリット)』と
『KSCAN(ケースキャン)』、そしてクレーンの『KCROSS(ケークロス)』の開発やサービス最前線を担う者が一堂に会し、その開発背景をはじめ、経営者や機械管理者といったお客様へのメリット、また、サービス面での魅力について語り合った。

ショベルの安定稼働への見守りを

村田:コベルコ建機のショベルは、2000年代初頭から他社に先駆けて、位置情報や燃費情報などの稼働情報収集をもとに、稼働機管理を行う『MERiT』をショベルに搭載させていました。さらに、2016年に販売を開始した10型シリーズからは予防保全システム『KSCAN』を搭載し、以降3年間で、すでに約2,000台が稼働しています。

中川:先行して搭載した『MERiT』は、稼働時間や位置情報を取得しやすくし、機械管理をサポートする側面が強かったように思います。一方『KSCAN』は、より厳しくなった排ガス規制や省エネ要求、いっそう複雑化した機能などに対応して、燃費やポンプの出力、冷却系の能力などを遠隔で見守り、トラブルの予兆を捉え、適切な処置をすることでマシンダウンを未然に防ぎます。稼働停止などによる機会損失を最小限に留めることを、基本的な開発コンセプトとしています。

村田:稼働データを遠隔で見守り、機械の安定稼働を見守るソリューションは、他社にも同様のシステムがありますね。

中川:コベルコ建機の稼働機管理システムの特徴は、油温や水温のほかエンジンの燃料噴射圧力や油圧ポンプの圧力、各機器の制御情報など細部までチェックできるところです。また、一部例外を除き13t以上の新型モデル全機種に搭載しています。

村田:お客様目線で考えた結果、より広いレンジに対応することにしたのですよね。

サービスのスピードと
精度アップが加速

村田:『KSCAN』の搭載は、サービスの現場にも変化をもたらしたのではないですか?

今泉:はい。以前は現場に駆けつけ、実機を見てから診断するので、それだけ対応や処置に時間がかかり、時には必要な部品を取りに再度工場に戻るというロスもありました。これに対して『KSCAN』では、工場からでもさまざまな数値情報が確認できるので、出動前に原因を絞り込むことで、対応スピードを向上させられました。また、現場に持っていく工具や部品もシェイプアップできています。

村田:『KSCAN』を活用することで効率的な対応が可能になり、「できるだけお客様の稼働を止めない」という鉄則が貫けるようになったのですね。

今泉:例えば、24時間稼働の金属スクラップ業の現場で、水温が上がりパワーが落ちているのを、お客様が気づく前に管理画面上で発見しました。フィルターに金属粉が詰まっているのではないかと判断し、電話で掃除をお願いして大事に至るのを防げた、というケースもあります。

村田:サービスは、経験や習熟度に依存する部分が多く、属人性が高い仕事です。そういった面でも変化があったのでは?

今泉:即座に数値データが把握できることは、サービス水準の均質化につながり、若手の対応力も向上したと思います。また、タブレット端末などで、機械のリアルな状況をお客様に提示することで、より説得力のある説明ができるようにもなりました。

村田:『KSCAN』と『MERiT』の組み合わせによって、点検を必要とする機械とその所在、部位や状態を効率的に把握することが可能になったわけですね。そこから上がってくるさまざまなデータはまさに管理運用性を向上させるための宝庫。それらをどう読むか、というのがこれからのポイントになっていきそうですね。

現場で活躍するショベル各部のデータを日々見守ることにより、トラブルの発生を事前に予測。問題が起こる前に最善の対応を図ることで耐用性をさらに高め、安定稼働をサポートするコベルコ独自のIoT(Internet of Things)を駆使した予防保全システム。

GPSを活用し、各現場で活躍するショベルの位置情報、燃料やオイルなどの補給、警報状況などをリアルタイムにチェックしメール等で通知。日々の稼働機管理支援とともに、サービス活動の効率化や精度アップにも貢献する。

『MERiT』の思想と稼働機管理システム機能をクレーンに実装。保有機械ごとの稼働率や業務効率の把握~向上への活用はもちろん、履歴分析によるアフターサービス提案やトラブルの予測に基づく予防保全的にも活用される。

クレーンに固有のコンテンツを追求

村田:クレーンの稼働状況をトータルで遠隔管理する 『KCROSS』が、国内で販売される全クローラクレーンに標準搭載されたのは、2008年4月のことでした。

平手:ショベルの『MERiT』搭載からタイムラグがあったのですが、それには理由がありました。まず、クレーンの場合、機械の大きさなどもあり、当時ショベルを巡る社会問題となっていた盗難被害はあまり想定されず、位置情報もそれほど必要とされなかったのです。一方、稼働状況については、ショベルに比べてハードな使われ方はしないので、水温や油温にセンシティブになる必要はなかったのですが、荷重やつり方の状況などには、むしろより詳細な情報が求められていました。

村田:つまり、ショベルとは使われ方が異なるクレーン固有のコンテンツが求められており、それを調整するために、開発に時間差を要したということですね。

平手:そうです。クレーンは、20~30年という長いスパンでお使いいただく製品であり、荷重やつり姿勢などが業種や現場ごとに異なってくるため、使われ方の把握が大切なんです。また、 安全性への配慮も重要で、例えば「過負荷防止装置を解除していないか」などのチェックも、必要になってきます。

村田:クレーンにおける『KCROSS』の優位性は、どこにありますか?

平手:何といっても『KCROSS』の強みは、弊社のクレーンラインナップ全機種に標準搭載されているところですね。

村田:そうなると、収集できるデータの量も違ってきますね。

平手:はい。国内はもとより、グローバルで多くの現場ケースに基づくデータがとれますので、トラブル診断や対応策も、さらに高精度に磨かれていきます。そこで得られた知見や分析結果を、次の製品開発の要件定義にフィードバックすることで、必ずより良い製品づくりが実現するものと自負しています。

ショベルとクレーンの
さらなる相乗効果を

村田:機械がどう使われているかというデータが製品開発に活用できるのは、お客様にとっても非常に魅力的なのではと思います。

平手:目下、そんな動きの中で生まれた新機能が実証実験段階にあり、もう間もなく、実機搭載できるはずです。

トラブルの予兆を察知し、
マシンダウンを未然に防ぐ

中川:ショベルの場合も『KSCAN』の収集情報は社内で共有され、サービス担当者のスキルアップとともに、私たち開発部隊への新たな要求として蓄積、活用されています。

村田:今後、ショベルとクレーンの相互乗り入れ的な開発姿勢も、さらに重要になってきそうですね。

平手:はい。各々重複開発するロスを排除して基盤的技術を共有しながら、それぞれのユーザニーズに沿ったコンテンツの広がりを築いていくべきだと思っています。

中川:現時点でもすでに、荷重や動作姿勢などに関するクレーンの知見は、ショベルにも活かしていきたいと考えています。

平手:私たちも『KSCAN』の見守り姿勢を見習いつつ、故障診断から予防保全へというベクトルを強化していきたいと思います。そこには人工知能などの新しい技術を加味していく必要もあるでしょうね。

村田:いずれにしても、機械の健康状態を見守りながら適切な診断をし、“稼働を止めない”ことを担保していくこと。さらにその価値を長く保持するという基盤技術を共有しながら、ショベルとクレーンの開発部隊が協調的に動き、その成果をお客様に還元する姿勢を強化していきたいですね。

稼働機管理システムと現場のイメージ

一昔前稼働機管理システムがなかった時代

故障の原因を突き止めるのに時間がかかるため、現場が止まってしまう。場合によっては代替機の手配が必要になり、稼働ロスだけでなく、コストアップや納期に間に合わないといった大きな問題にもつながりかねない。

稼働機管理システムがある現在

故障の原因を突き止めるのに時間がかかるため、現場が止まってしまう。場合によっては代替機の手配が必要になり、稼働ロスだけでなく、コストアップや納期に間に合わないといった大きな問題にもつながりかねない。

将来稼働機管理システムが今後目指す姿

故障が起きる前にメンテナンスを推奨するなど、現在の稼働機管理を通じた予防保全は、基本的に機械内部を対象にしている。将来的には機械外部にも目を向け、操作パターンや各装置の作動量といった情報から、機械の疲労状態やワイヤの磨耗状態などを予測し、先手を打って処置できる仕組みの実現を目指している。

太田利之= 取材・文 園田哲夫= 撮影 千野エー= イラスト text by Toshiyuki Ota/photographs by Tetsuo Sonoda/illustration by A Chino