コベルコ建設機械ニュース

Vol.244May.2019

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特集

プロダクトデザイン
可能性を探る

優れたデザインとは、使う人のパフォーマンスを最大限に向上させるもの――。
コベルコ建機はこの「パフォーマンス×デザイン」を
コンセプトに掲げ、新型ショベル『SK75SR-7』を開発した。
その発売を控えた今回は、ものづくりにおけるデザインの
あり方について、他業界の事例も交えつつ探ってみる。

パフォーマンスとデザインの融合ソニーの製品開発に学ぶデザインの
あるべき姿

ソニーが2017年秋に発売したウェアラブルネックスピーカー『SRS-WS1』は、新感覚のワイヤレススピーカーとして人気を博し、新たな市場を創出した。その開発を率いたソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツの伊藤洋一さんと弦本隆志さんを、コベルコ建機の『SK75SR-7』の開発メンバーである植田登志郎が訪問。開発秘話を伺うなかで、パフォーマンスとデザインの融合について考察する。

商品価値の追求がデザインのあり方を
決定していく

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ウェアラブルネックスピーカー
SRS-WS1
肩にのせるだけで、音に包み込まれるような臨場感と振動による新たな音体験を実現。ソニーのものづくりを体現した、新発想のワイヤレススピーカー

植田:今回、私たちが開発した新型ショベル、SK75SR-7のコンセプトに設定した「デザイン」とは、ビジュアル面での意匠に限らず、機能性や強度、利便性などを包括したより広義の「設計」を含む概念です。常に独創的な製品を世に送り出し続けているソニーさんも、デザインを機能性と不可分のものとしてお考えなのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

伊藤:おっしゃる通りです。そもそも工業デザインは、「こんなことを実現したい」という明確な目的があって描かれるものです。商品価値を追求するなかで、自ずと機能性と調和がとれたものになっていくのだと考えています。

植田:その意味で『SRS-WS1』は、ワイヤレススピーカーを身に着けることで、テレビやゲーム機からの位置や距離に縛られず、自由に迫力ある音を楽しもうというコンセプトが明確ですね。

弦本:これまで世の中に存在しなかった商品として、「実現したい世界」がユニークかつ明確なため、そのデザインもあるべき姿にまとまっていきました。

植田:たしかに、独特の形状を見ただけで、首にかける・肩にのせるという使い方が直感的に理解できます。この商品はどんな経緯で誕生したのですか?

伊藤:若手社員が、「こんなものがあれば、テレビの楽しみ方がより豊かになるだろう」と、自発的にプロトタイプを製作し、提案してきたことがきっかけです。

植田:社員の方々が、アイデアを自由に提案するという闊達さは、いかにもソニーさんらしい企業風土ですね。

伊藤:「おもしろいものを創りたい」というマインドは、当社のDNAとして全社員に根づいているのだと思います。

弦本:もちろん、商品化されるまでには、市場性や事業としての可能性が厳しく検討されます。ただ、意思決定プロセスや商品化確定以降の展開のスピード感は、当社ならではの文化であると自負しています。

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「音に包み込まれる新感覚」を実現するために、いくつものプロトタイプを製作。スピーカーに備え付けたスリット(開口部)の長さや音の方向性を整えるスロープの形状、余分な共鳴を抑える調音ダクトの配置などを調整し、現在のデザインに至った

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低音を増強するパッシブラジエーター(振動板)は、開発途中で臨場感を最大化させるために形状や重量を変更。その判断が、製品の大きな特長を伸ばす結果となった

グローバル市場を見据えた
ユニバーサルデザインの追求

植田:建機という商品は、ユーザや用途が限定される生産財のため、ユニークさを自由に追求するのは難しい部分があります。ただ、「お客様に喜ばれ、市場を席巻するような商品を生み出したい」という製造業としての想いは、ソニーさんとも共通していると感じています。

伊藤:それが「パフォーマンス×デザイン」というコンセプトにつながってくるわけですね。

植田:はい。今回上市するSK75SR-7は、当社の強みである低燃費や環境親和性、堅牢性やパワーなどを堅持・強化しつつ、その機能的な強みをデザインにまで貫く姿勢を追求しています。

弦本:SRS-WS1の開発では、より多くの方にお使いいただくために、体型や体格を選ばないユニバーサルデザインの実現に苦労しました。さまざまな人体モデルをベースに、誰でも快適に使えるサイズや重さを探っていったのですが、建機の場合も同様の意識はあるのでしょうか?

植田:SK75SR-7においても、日本と欧米、どちらのお客様にも快適に乗っていただける工夫を凝らしています。その実現のために、人間工学に基づいた設計を心がけました。

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左から、ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社の弦本隆志さん、伊藤洋一さん、コベルコ建機の植田登志郎

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SK75SR-7パワーやスピードといったパフォーマンスと、使いやすさや快適性を実現したデザインを融合させた、コベルコ建機の新型7tクラス後方超小旋回ショベル

誰でもその魅力が直感できる
ものづくりを推進したい

植田:先ほど実際に、SRS-WS1を使わせていただきました。音に包み込まれる感覚は未体験のもので、肩から伝わる振動がもたらす臨場感にも驚きました。

伊藤:実は当初、低音域に共鳴するパッシブラジエーターを搭載して、重低音の強調を図っていたのですが、試作段階でその振動が身体にも伝わることが分かりました。そこで「この振動を利用しない手はない」と、臨場感を最大化するために形状や重量を再調整しました。

弦本:あの振動は、「瓢箪から駒」的な副産物だったのです。それが結果として、映画のアクションシーンの迫力や、ベース、バスドラムなど、低音楽器の臨場感を倍加させる大きな要素になりました。

植田:スペック値だけでなく、その性能が「体感できる」というのは大きな魅力ですよね。SK75SR-7も従来機から登坂能力が25%アップしているのですが、実際に乗っていただくと、その違いが明らかに体感できるはずなんです。

弦本:どんな商品でも、「試してもらえればすぐに分かる魅力」こそが、大きな商品差異化ポイントになりますね。

伊藤:SRS-WS1では、お客様がご利用になるであろうリビングの家具や調度との一体感、人間工学に基づく心地よい装着感といった質感にも配慮しており、筐体の一部にあえてソファー素材のようなファブリックを採用しています。

弦本:もちろん、長期間の使用に耐え得る防汚加工や、着用した際のネック部分の柔軟性と強度の両立にも、細心の注意を払いました。

植田:布の感触は、柔らかさとともに視覚的な軽量感の演出にも貢献していますね。私たちも今回、視覚的なイメージを追求するという点で、家電製品などから学んだ点も少なからずあります。例えば、視覚的に分かりやすい大型カラーモニタや、直感的に操作できるジョグダイヤルを採用しています。これからは建機も、お客様の使い勝手をより追求していく必要があると痛感しており、ユーザインターフェースの面でも業界をリードしてきたソニーさんから、学ばせていただく部分が多々あると思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

SRS-WS1を開発

ソニーホームエンタテインメント&
サウンドプロダクツ株式会社
プロダクトマネジャー

伊藤洋一さん

1987年入社。コンピュータ/TVペリフェラル機器等の商品設計やプロジェクトを担当。今回のSRS-WS1では開発設計全体のマネジメントを担った

ソニーホームエンタテインメント&
サウンドプロダクツ株式会社
システムエンジニア

弦本隆志さん

1980年入社。大型テレビ、ハイビジョン1号機、デジタルテレビ放送設備等のシステム設計を担当。SRS-WS1の開発では新音響設計を行った

SK75SR-7を開発

コベルコ建機株式会社
SRシリーズ開発部
シニアマネージャー

植田登志郎さん

1993年入社。7t、13tクラスなど、後方超小旋回ショベル(SR機)の機種開発業務を担当。今回のSK75SR-7では商品要件・開発全体の取りまとめを行った

太田利之= 取材・文 神保達也 = 撮影 text by Toshiyuki Ota/photographs by Tatsuya Jinbo