
“パフォーマンス×デザイン”
の思想が結実した
新世代コベルコの自信作
『SK75SR-7』開発ストーリー
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崎谷 慎太郎 技術開発本部
生産設計部
内装部品開発グループ
グループ長
1992年入社。「海外市場を意識したインテリア設計を進めましたが、現地法人のメンバーから『お客様に喜んでいただける仕上がりだ』と評価されたのがうれしかったですね。これからも、地球規模でお客様に受け入れられるものづくりを進めていきます」
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山本 圭司 技術開発本部
生産設計部
内装デザイン開発グループ
2005年入社。「実測値に沿った設計を進めながら、さまざまな体型のオペレータの方にご満足いただけるポジション設定に苦労しました。働き方改革が進むなかで、女性の進出にも貢献しながら、誰もが快適に作業できる環境整備を進めたいですね」
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塚本 大徳 技術開発本部
生産設計部
上部旋回体開発グループ
マネージャー
2006年入社。「今回は作業効率アップにも注力しました。オペレータの方々は早く帰ることができ、全体の工期短縮も実現すると確信しています。乗っていることが誇れるマシン、お子さんが“お父さん、かっこいい!”と尊敬できる機械をつくっていきたいです」
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鶴田 純 技術開発本部
システム・コンポーネント開発部
ショベル統合システム開発グループ
2014年入社。「操作や機能が一目瞭然で直感的なユーザインターフェースを心がけました。パソコンやタブレット、スマートフォンなどに慣れ親しんだ若い世代の方にも、楽しみながら操作していただけるデザインになったのではないかと思います」
この開発に携わったプロフェッショナルたちが『SK75SR-7』の誕生秘話を明かした。
機能性の追求から生まれる
究極のデザインを求めて
内装部品開発グループでグループ長を務める崎谷慎太郎は、「海外メーカが台頭するなかで、コベルコ建機本来の革新性をさらに発揮する思想が、本開発プロジェクトのコンセプト『パフォーマンス×デザイン』に結実していった」と語る。
「例えば航空機やF1マシンなどは、そのスピードに対し、空力設計や機能性、操作性を極限まで追求した結果として、あのようなフォルムが生まれていったはずなんです。今回のSK75SR-7の開発では、生産性のスピードとパワーを向上させつつ、使いやすさも高めた結果生まれた“機能美を追求”した製品です」
もちろん、その思想はビジュアル面だけにとどまらないと崎谷は続ける。
「オペレータの方の居住性や操作性を設計要件の最優位に据え、仕事がしやすく疲れないマシン、毎日乗ることを誇りに思っていただけるマシンにしたいと考えました」

社内各部署や海外法人のメンバーを対象に、デザイン評価が行われた
実測データを基にポジションの
最適化を推進
その実測データに基づいて、人間工学や感性工学的な視点を盛り込みながら、最も低負荷で生産性が高い操作姿勢、シート高やレバーをはじめとする操作装置やスイッチ類の位置の最適化を進めていったのである。
崎谷と同じ内装部品開発グループの山本圭司は、その結果として多くの発見があったと語る。
「例えば、マシンの揺れやレバー操作などに伴って、足への負荷が大きく変化することが分かりました。想像以上に、床面を踏ん張る力が重要だったのです。そこでシートの高さを、従来よりも30mm下げることにしました」
またレバーは、ひじを緩やかに曲げた状態で握ることが最適なポジションであることも判明。従来よりもレバー角度を起こし、作業者の身体に近づけることにした。
「ここで一番苦労したのは、どんな方が操作しても、高いフィット感のもとで快適な作業が行えるユニバーサルデザインの実現でした」(崎谷)
つまり、日本人の標準的体格での測定実験を進めつつ、小柄な女性や逆に大柄な外国人などにもベストマッチするポジションの確立を目指したのだ。そのために、さまざまな体格の人に機能性モックアップに座ってもらい、シートのスライドなどで最適ポジションへの対応を図るモニタリングを実施した。
「特に大柄な現地法人スタッフにも、モニター参加してもらいましたが『快適に作業ができる』と太鼓判を押してもらえ、自信が深まりました」(山本)
インテリアのカラーリングは、黒とグレーのツートーンに抑え、海外でも人気が高いシックな上質感を演出した。


機能性・作業性を追求し、操作に伴う身体的負荷の最小化が図られたキャブ。上質感あふれるシックなカラーリングはもちろん、エアコンの吹き出し口の位置にまで、人間優位の思想が込められている


操作する人の筋電位測定値に則して、レバーの位置角度も変更された
視界・作業性・剛性に貢献する外装デザイン効果を発揮
「キャブからの目視性を高めるために、容量はそのままでタンクの位置を従来よりも下げました。ボディ内部における機構部とのスペース的なやりくりに苦労しましたが、そのおかげで給油口を地上からアクセスできる高さに設けられたため、給油作業性もアップしました」
さらに、車体後部と左右にカメラを配した「イーグルアイビュー」を標準装備。画面上で周囲270度を鳥瞰することができるため、安全性がさらに向上した。またボディ後部の形状をブロック状に区切り、デカール貼付などの装飾を排したワイルドな凹凸感で、へビーデューティーなイメージを演出した。
「強度設計から導き出されたこのラインによって、ボディの剛性もさらに高まりました」(塚本)


ボディ後部と左右にカメラを搭載した「イーグルアイビュー」を標準搭載。画面上で周囲270度を鳥瞰できる


大型10インチのディスプレーで、分かりやすさと見やすさもアップ。色目やアイコンデザインにも細心の注意を払った
直感的なソフトウエアと高質感内装で快適性を向上
さらに、視覚表現を分かりやすくするために各アイコンの形状を再検討した。
「基本的な画面デザインは、室内空間に合わせてメタリックに色数を抑えました。燃料計や油圧計には部分的に赤や青などを採り入れることで、重要なポイントへの注意を喚起する工夫を凝らしています」(鶴田)
エクステリアとインテリア、さらに画面のデザインイメージは、各部門のスタッフや欧州・北米の海外現地法人の意見を採り入れるために、数次の社内評価会を実施した。また、キャブ内のカラーリング等はVR(仮想現実)システムを駆使して評価を仰ぎ、即日変更・提示して再評価を重ねた。
今回のプロジェクトは、機能性モックアップのリアルとVRなどのバーチャルでの検証を組み合わせながら、小刻みにプロトタイプを評価し、改修を繰り返すスパイラルな開発手法を導入した。
「デザインのあるべき姿を追求し、手戻りを排除して開発精度の向上を実現するこの開発手法は、今後の開発の主流になっていくだろうと思います」(崎谷)
そのなかで、開発のフロントローディングも進み、製品精度アップと同時に開発期間や市場投入サイクルの圧縮も加速されていくはずだ。コベルコ建機の油圧ショベルは、今後さらにお客様目線で発想しながら、機能とデザインの融和を進めていく。

今回のプロジェクトを牽引したメンバーたち。
左から鶴田純、崎谷慎太郎、山本圭司、塚本大徳
※掲載内容は発行当時(2019年5月)の情報です。
太田利之= 取材・文 小林 修= 撮影 text by Toshiyuki Ota/photographs by Osamu Kobayashi