コベルコ建設機械ニュース

Vol.252May.2021

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KOBELCO TOPICS TK550GSB 開発ストーリー

基礎土木工事における多様な作業ニーズに対応
狭小地や上空制限下で活躍する
TK-Gシリーズ初の
ショートブーム仕様機
『TK550GSB』開発ストーリー

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  • 鶴見 俊樹 マーケティング事業本部
    クレーン営業本部
    クレーン商品企画部
    マネージャー


    2007年入社。「クレーンの開発部門から、お客様や市場からの情報を収集して新しい機械を企画する本部署に移籍しました。自分の提案した機械をお客様が今後どのように活用してくださるのか、今から楽しみにしています」

  • 梁 柏輝 技術開発本部
    クレーン開発部
    テレスコクレーン開発グループ


    2018年入社。「クレーン本体部分の構造設計を中心に担当しながら、設計全体を管理する立場で開発に参加しました。先輩たちの知見を吸収しながら、部門を超える交渉技術も鍛えられたと思います」

  • 小坂 恭平 技術開発本部
    クレーン開発部
    クレーンアタッチ開発グループ


    2009年入社。「広島事業所でショベルのブーム設計担当などを経て、今回TK550GSBで初めてクレーンの伸縮ブーム設計を担当しました。広島での経験を活かして、クレーンの設計ノウハウをまとめ上げ、技術の粋を上手くTK550GSBに継承できたと思います」

  • 松江 聡賢 生産本部
    大久保事業所
    汎用第二製造室
    係長


    1998年入社。「工場での試作段階で設計などの問題がないかに注意を払い、開発部門へとフィードバックするのが仕事でした。今回の開発では、若いスタッフに対し、組立工程における自らの経験を伝えることにも力を注ぎました」

 ブームの組立・分解が不要なテレスコピックブームを装備したコベルコ建機のクローラクレーン、TKシリーズ。抜群の輸送性能と狭所での機動力に優れたコンパクトボディ、そして過酷な現場での作業に耐え得る頑丈な構造と高いつり上げ能力で、基礎土木の現場から絶大な支持を受けている。この基本思想を継承した現行機、TK-GシリーズはTK750G、TK750GFS、TK550Gの計3モデルだったが、今回新たなモデルが加わった。それが、ショートブーム仕様のTK550GSBだ。
 TK550GSBの開発は、近年、活発に行われている都市部を中心とした再開発やインフラの更新が契機になっている。これらの現場は狭小地であることや、橋梁、高架下など上空制限がある場合が多く、そうした条件下でもより効率的に作業が可能な短いブームのクレーンに対するニーズが高まっていた。これに応えるため、55tクラスでのショートブーム仕様機の開発を目指すことになったという。
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長年に渡り、基礎土木の現場で高い評価を受けているテレスコピッククローラクレーン、TK-Gシリーズの新ラインナップ。狭小地や上空制限を有する現場での作業に最適なショートブームを装備し、都市部の再開発工事などでの活躍が期待される。

TKブランドの長所を保持しつつ
新たな個性をプラス

 以前より構想としてあったTK550 GSBの開発を、現実のプロジェクトとして始動させたのが、クレーン商品企画部の鶴見俊樹だ。テレスコピッククローラクレーンの開発に技術者として携わっていた鶴見は、現部署に異動して開発モデルの検討を行っていた際に、ショートブーム仕様機の使い勝手の良さに着目。お客様訪問を通じて、その着想についてのヒアリングを行ったという。
「ショートブーム仕様機に対するお客様の反応は上々で、こんな現場で活用できそうなど、前向きな意見をたくさんいただきました。それによって、構想が確信へと変わりました」(鶴見)
 開発モデルのコンセプトを考える上で鶴見が最も重視したポイントは、TKブランドがお客様から評価されている「頑丈で強い」という長所をしっかり継承すること。そこに、狭小地や上空制限下でも使いやすいショートブームという、新たな個性を加えることを開発の狙いとした。
 機体設計を担当したテレスコクレーン開発グループの梁 柏輝によると、その作業はかなり繊細なものになったという。
「今回の開発は、ブームを載せ換えればそれで終わりと思われがちですが、そう簡単ではありません。新たなブームは長さも重さも異なるうえ、ワイヤ径も太くしたことで、機体自体の安定度、強度を保つために、ワイヤロープ経路上の関係部品の構造変更を行う必要がありました」(梁)
 例えば、カウンタウエイト部分の形状を変えたこともその1つ。機体の後端半径をキープしつつ、サイズアップしたガントリに干渉しないよう、カウンタウエイト形状への工夫が施された。生産性や組立性を考慮して、カウンタウエイト設計を幾度も見直し、強度が要るガントリとサイズアップさせないカウンタウエイトを両立させたことで、TKブランドの特色である優れた耐久性、コンパクト性が、TK550GSBにも受け継がれた。
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チルト2枚補助シーブ(特許出願中)を装備し、通常用と低空頭用の2つのポジションを使い分けることが可能。低空頭用ポジションでは、揚程を約1m多く確保できるため、上空制限がある現場でもハンマーグラブによる掘削作業がよりスムーズに行える。

強度設計を一から見直し
多様な基礎工事の作業が可能に

 開発のキーとなるショートブームの設計を担当したのが、クレーンアタッチ開発グループの小坂恭平だ。
「従来のTKシリーズのテレスコピックブーム機構はお客様からの評判が良く、その完成度の高さもあって、初めて商品化された当時の設計から大きな変更を行ってきていませんでした。ショベルのブームは開発経験がありますがクレーンのブームは初めてですので、昔の設計資料を集めるだけでも一苦労でした。強度設計に関するデータと図面を一から照らし合わせたり、コベルコ建機が持つ伸縮ブームの設計技術を整理し、設計を行っていきました」(小坂)
 ブームを短くすることで力の受け方が従来機と変わってくるため、ショートブームの強度はすべて計算し直している。その結果、どこをどの程度補強すべきなのかを検討し、ブームの縦と横に格子状の補強材を設置した。
「TK550GSBの開発では、ブームを短くしてもTK550Gと同等レベルの能力値を出すことが目標でした。そのため、長いブーム全体で負荷を受け止める従来機とは異なる、ショートブームならではの強化が必要になりました」(小坂)
 強度設計の見直しにより、TK550 GSBはTK550Gでは推奨していなかったハンマーグラブでの作業も可能になった。さらに、通常用と低空頭用の2つのポジションを使い分けることが可能なチルト2枚補助シーブを開発。これにより、低空頭用ポジションでは上空制限下でもハンマーグラブの揚程を約1m多く確保できる。
「油圧オーガについても、TK750Gと同サイズのブームヘッドを装着し、強度アップをしたことで、TK550Gの推奨仕様よりも1クラス上のサイズのオーガアタッチメントが使用できます」(小坂)

開発プロジェクトを通じて
スタッフの経験も継承する

 TK550GSBは、従来のTK550Gと基本構造は変わらないものの、ブーム部の補強材やブームヘッドのサイズアップなど、細かな部分での変更が数多く行われている。そのため、工場における量産体制の構築も丁寧に進められた。組立ラインを指揮した汎用第二製造室の松江聡賢は、試作の際に通常よりも多くの時間を割いて、組み立てや図面上の不備がないかなどを開発メンバーとのやりとりを通じて慎重に確認したという。
「ラインで働く作業スタッフの若返りを図っている最中という事情もあり、彼らが今までやったことのない作業もありました。そのため、自分の経験を伝えるなど、技術継承という点も意識して仕事に当たりました」(松江)
 先人たちが創り上げた「TKブランド」を継承し、進化させることを目指した今回のプロジェクトでは、技術面だけでなくベテランスタッフが持つ経験という財産もしっかりと受け継がれた。今後は、テレスコピッククローラクレーンの次なる開発も予定されており、TK-Gシリーズが基礎土木の作業にさらなる革新をもたらす日もそう遠くはないだろう。
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TK-Gシリーズの可能性を広げるべく、ショートブーム仕様機を生み出した開発メンバーたち。次なるプロジェクトでは、どんなプロダクトで新しい価値を創造してくれるのか、期待がかかる。

※掲載内容は発行当時(2021年5月)の情報です。

山田 高広= 取材・文 鈴木 康浩= 撮影 text by Takahiro Yamada/photographs by Yasuhiro Suzuki