コベルコ建設機械ニュース

Vol.253Aug.2021

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特集中小規模工事の可能性を探る

管路工事無電柱化中小規模工事の
可能性を探る

公共インフラの老朽化や無電柱化の推進という時代の流れの中で、
中小規模工事の需要が増加している。
狭小現場であることが多いこれらの工事に対して、ICT導入はどうあるべきか──。
建設業界向け専門誌『日経コンストラクション』の元編集長でもある
日経BP総合研究所の野中賢さんにお話を伺った。

photo:藤本健一

野中 賢さん

日経BP総合研究所
社会インフララボ
上席研究員

東京工業大学大学院社会工学専攻修士課程修了後、1992年日経BP入社。建設専門誌『日経コンストラクション』編集部で建設技術、インフラの維持管理、まちづくり、景観などのテーマを担当。2012年10月から同誌編集長。19年4月から現職。

中小規模工事市場を巡る現状

ここ数年、都市部を中心に、道路管工事需要が拡大する中、老朽化した管埋設の破裂などに起因する道路陥没が報告されている。また都市景観の整備とともに、災害時の電柱倒壊による道路閉塞や車両交通阻害を防ぐなどの狙いから、無電柱化工事のニーズも広がっている。さらに、橋梁や上下水道など高度経済成長を背景に、集中的に築かれたインフラはいずれも構築後半世紀を経過しており、現在、一気に再構築の時を迎えている。

すでに国土交通省直轄工事の約8割がICT施工化されているのに対して、上記のような中小規模工事では、依然その実施率が伸び悩んでいる。原因はどこにあるのだろうか。

「情報化施工の必要性は理解しているものの、『どれだけ利益が上がるのか』『生産性や収益性が見えにくい』『マシンやシステムへの投資が難しい』という声を耳にすることも少なくありません。一方、企業のステータスや格が上がり『今後の受注につながる』『人材採用に役立つ』など、将来を見据えたメリットを訴える方が数多くいるのも事実です」(野中さん)

確かに、ICTの導入効果は大規模工事のほうが顕在化しやすい。しかし、例えば測量が困難な都市部の狭小現場でも、ドローンを使えばスピードアップと精度向上が実現できる。測量ノウハウを自社に蓄積しながら、これまで外注していたコストを削減することも可能だ。

中小規模工事における情報化施工のメリットとは?

先に述べたように、下水管工事などは各地でメンテナンス期を迎えている。国交省の調査では、令和元年度末における全国の下水道管渠の総延長は約48万km。そのうち、標準耐用年数50年を経過した管渠の延長は約2.2万km(総延長比5%)で、10年後は7.6万km(同16%)、20年後には17万km(同35%)と急速な増加が見込まれている(下図参照)。

管路施設の年度別管理延長(令和元年度末現在)

布設後50年を超える老朽管が今後も増加していくことが分かる。掘ってみないと地中がどうなっているか分からない管路工事を安全かつ効率良く行うためには、ICT活用は有効だ

出典:国土交通省HP
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html

しかし、管路工事は未知の埋設物などが多く、「掘ってみないと分からない」こともあるため、工期やコストの把握が困難だった。

「この課題をクリアできるのが、情報化施工のメリットの1つです。情報化施工の場合、測量結果を3Dデジタルデータとして作成・保持できるため、当該施工はもちろん、将来のメンテナンス計画や進捗管理も容易になります」(野中さん)

ICT投資には大きな経営判断が求められるが、まずは測量や設計などの手をつけやすい部分から着手し、早期にスタートを切ることが、将来の勝ち残りの鍵になると考えられる。

ICTを企業変革のトリガーに

「高頻度の『技術基準・積算基準見直し』や『研修会等の実施』『簡易型ICT活用工事』の導入など、国交省の諸施策も国の取り組みの本気度を示しています。もちろん、ICTが本来的な成果を結ぶためには、上流~下流を貫くトータルな戦略的視点が大切です。そこで、当面データ作成を内製化し、施工はレンタル機などを利用しながらウォーミングアップを図って、企業体力やタイミングを見ながら自前のマシンを導入。次への飛躍を図るというスタンスも可能です」(野中さん)

さらに、従来の手順からICT施工への変革を目指す全社的な意識合わせも大切だという。例えば、ICTの導入で現場から帰社後の事務作業の簡略化が実現できる。事務部門では、見積りや請求業務支援を図ることができるなど、業務負担や残業の減少といった社員に対する具体的なメリットがあるからだ。

「ICT導入は、人手不足や技術継承の困難さが叫ばれる業界の中で、若手の採用や女性の活用などにも貢献してくれることでしょう。『働き方改革』の実現や企業文化の刷新などを意識しながら、社内全体で話し合いを深め、今こそICT化への意思一致を図っていきたいものです」(野中さん)

太田利之= 取材・文 text by Toshiyuki Ota