コベルコ建設機械ニュース

Vol.253Aug.2021

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特集中小規模工事の可能性を探る

コラボレーションで実現する
無電柱化⼯事、現場の⼒

最近、国土交通省は街の無電柱化について本格的に注力し始めている。
そんななか、コベルコ建機では「電線のない街づくり支援ネットワーク」、
ジオ・サーチ株式会社」と連携。

新たなソリューション開発を加速させている。
この取り組みのキーパーソン4人に、無電柱化事業の今を語っていただいた。

photo:藤本健一

高木徳雄

コベルコ建機株式会社
マーケティング事業本部
ショベル営業本部
施工ソリューション部
ソリューション営業グループ グループ長

ICTホルナビ推進室の室長から、2021年に新設された施工ソリューション部ソリューション営業グループのグループ長に就任。

NPO法人から生まれた新たな企業間連携

高木:井上さんが理事を務めていらっしゃるNPO法人「電線のない街づくり支援ネットワーク」はどういった経緯で設立されたのですか。

井上:私は無電柱化工事の施工会社を長年経営しているのですが、お客様から電柱をなくしてもっといい街をつくりたいという相談をいただいても、なかなか進みませんでした。それが設立のきっかけです。2006年から1年かけて準備をし、07年4月にNPOとしての認証登録を経て設立に至りました。当初は理事10名のみのスタートでしたが、その後にコベルコ建機さんやジオ・サーチさんなどの関係各社にご入会いただき、現在は会員数161社で活動しています。

高木:これまでどんな活動をされてきたのですか。

井上:防災や景観といった面で、電線の地中化は非常に重要という話をしても、以前はなかなか理解してもらえませんでした。そのため、当初からセミナーや勉強会といった、いわゆる啓発活動を重点的に行ってきました。

高木:そうした活動をするなかで会員が増えていき、私たちコベルコ建機とジオ・サーチさんの協働を取り持つといったような活動も始めたわけですね。

井上:私たちとしては、技術開発委員会というものをつくって、いろいろな業種の企業がコラボしたり、マッチングしたりする場所を提供しているだけです。そこにコベルコ建機さんやジオ・サーチさんにもご参加いただいて、会員同士の交流のなかでいい出会いが生まれたみたいですね。

高木:はい。まさに仲人をしていただいたような形で、ジオ・サーチさんといっしょに無電柱化事業へと取り組むことが決まったのです。

photo:藤本健一

井上利一さん

特定非営利活動法人
電線のない街づくり
支援ネットワーク
理事 事務局長

街の無電柱化がなかなか進まない現状を変えるべく、2007年4月にNPO法人「電線のない街づくり支援ネットワーク」を設立。理事兼事務局長として無電柱化の啓発活動に注力する。

地中探査の可能性に着目し、
新たなソリューション開発へ

高木:ジオ・サーチさんは、どういった経緯で電線のない街づくり支援ネットワークの会員になったのですか。

恵良:先ほど無電柱化がなかなか進まなかったという話がありましたが、原因の1つとして、地中に何が入っているのかよく分からないということがあると思います。その点、私たちはマイクロ波を使って地中の埋設管を探査する技術を持っているので、何かお役に立てるのではないかということで入会しました。ただ、私たちは無電柱化における工事や設計の仕方、材料のことなどはまったくの素人で分からない。したがって、いろいろな業種の方とお会いして、皆様が持っている技術に加えて私たちの技術も活用していただくことで、今までできなかったことができるようになるのではないかと。コベルコ建機さんとの出会いは、私たちのそうした願望が形になったという感じです。

高木:声をおかけしたのは、19年だったでしょうか。ジオ・サーチさんの地中探査という技術、その概要が分かった瞬間に、自分たちが地上でやっていることが、そのまま地下でもできるようになると確信しました。つまり、ジオ・サーチさんが地中探査で作成している地下の3Dマップデータに掘削用のバリアデータ(特許出願中)を新たに加えれば、マシンガイダンスで無電柱化工事が可能になると考えたのです。

  • データ処理例

  • 3D表示例

探査深度は1.5m程度で、1日で500㎡~1,000㎡を計測できる。計測後は、データ処理をして、3Dへと落とし込む

photo:藤本健一

恵良幹夫さん

ジオ・サーチ株式会社
取締役副社長

地中探査のプロフェッショナル集団にて、長年にわたり営業部門に従事。コベルコ建機とのコラボレーションにおける責任者として、新たなソリューション開発のマネージメントを担う。

地上・地下3Dマップデータで
無電柱化⼯事をトータルにサポート

高木:地上も3Dマップ化して地中の埋設物データと統合し、より正確な位置情報を表現できる地上・地下インフラ3Dマップは、ジオ・サーチさんならではのノウハウですね。

神代:地上と地下が一体となったマップデータが実現できたことで、これが設計・施工業務に役立つのではないかというところまでは分かったのですが、具体的にどう活用するのかがずっと課題でした。そんな時に高木さんと出会いました。3Dマップのデータに掘削用のバリアデータを付ければ、マシンガイダンス搭載建機を使った無電柱化工事のソリューションとして活用できる、というご提案を高木さんからいただいたことで、ようやく私たちの地中探査技術の活用方法が見つかったというわけです。

高木:マシンガイダンスのモニタに、建機のバケットの先端とバリアデータの位置関係をリアルタイムに映し出すというのが、私たちが連携してつくり上げたソリューションです。オペレータの方がその画面を見ながら掘削すれば、より迅速かつ安全な施工につながります。

恵良:現在、国土交通省では3Dデータを調査・設計・施工・管理で使って、事業全体の効率化、省力化、スピードアップ、コストダウンにつなげるという方針を出しています。私たちは、3Dデータを今まで調査業務だけにしか活用できていなかったのですが、無電柱化工事のソリューションに目処が立ったことで、設計や施工にも活かせるようになりました。さらに、埋め戻した状態を記録してクラウドに上げておけば、再び掘り返す際に正しい情報で効率的に作業ができます。その結果、3Dデータを地下インフラの管理にも活用できる体制が整いました。

  • 探査結果の3D化

  • 埋設物を踏まえた
    掘削バリアデータ

  • 掘削バリアデータ

  • ICTバックホウを
    用いての掘削作業

埋設物を踏まえた掘削バリアデータを使用し、作業を行う。そうすることで、管の破損を防いだり、作業効率をアップさせたりすることができる

photo:藤本健一

神代晃治さん

ジオ・サーチ株式会社
執行役員
新規事業開発部長

ジオ・サーチ株式会社が新たに手がける無電柱化事業を担当。地中探査のエンジニアとして、コベルコ建機と連携したソリューション開発に貢献。

施工業者の声から
さらなる使い勝手の良さを追求

恵良:無電柱化工事の新たなソリューションは、千葉・幕張で開催された展示会「CSPI-EXPO2021」でも大反響だったそうですね。

高木:弊社の7tクラスのマシンガイダンス搭載ショベルに3Dマップデータを取り込み、掘った状態を再現する展示を行いました。プラスチックでバリアデータをつくって配管の上に配置し、施工方法が分かるようにしたところ、いろいろな機械を展示していたなかで、無電柱化工事のソリューションが一番人気でしたね。

恵良:まだテスト段階で良い結果が出ているという状況なので、今後は現道でどこまでできるのかを、施工業者さんにも参画していただきながら確認していくつもりです。例えば、現在のバリアデータは配管上部15cmで設定していますが、それが正解なのか。3Dデータ上で水道管や電力ケーブル、光ケーブルなどの色分けは必要かなど、使い勝手の良さを追求すると、まだまだいろいろな課題が出てくると思いますので、さらに検討していきたいですね。

井上:さまざまな有意義なお話が進んでいるようで、場を提供した私たちとしては喜ばしい限りです。ただ、仲人はしましたが、これだけ熱愛されているとは思わなかったですね。

高木:今後は、行政に対しての工事ルールの改変やソリューション提案などで、井上さんにお手伝いいただければと思っています。

井上:私は、国土交通省道路局が組織する無電柱化推進技術検討会の委員でもあり、そこの小部会で会員さんのさまざまな技術を国交省の方に発信していく活動もしています。できることがあればお手伝いしていきたいと思います。

恵良:コベルコ建機さんとは無電柱化はもちろんのこと、解体機に探査機を付けて構造物の鉄筋量を調べるなど、ともに協力しながらいろいろな分野のソリューション開発ができると感じています。

高木:はい、私たちも今回のコラボレーションに大きな期待を寄せています。今後ともあらゆる面で協働していけたらありがたいですね。皆様、本日は時間を割いていただき、誠にありがとうございました。

山田高広= 取材・文 神保達也= 撮影 text by Takahiro Yamada / photographs by Tatsuya Jinbo