コベルコ建設機械ニュース

Vol.253Aug.2021

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特集中小規模工事の可能性を探る

中⼩規模⼯事の現場を⽀える
コベルコ建機のソリューション

2021年6月、コベルコ建機ではショベル営業本部に
「施工ソリューション部」を新設した。
発足の背景と、同部署が今後注力していく
ミッションや果たすべき役割について、
部長の山本昇司に聞いた。

photo:藤本健一

山本昇司

コベルコ建機株式会社
マーケティング事業本部
ショベル営業本部
施工ソリューション部 部長

2002年より当時新設された環境ビジネスに所属、07年に海外マーケティングや海外営業を担当。営業促進部に戻った後、17年より海外部へ。19年にアメリカのグループ会社に在籍し、21年6月から現職。

変化の大きい建設機械ビジネスの環境

現在、コベルコ建機を取り巻くビジネス環境は大きな変化の時を迎えている。これまでは、欧米や日本の重機メーカが世界の市場を牽引してきたといっても過言ではない状況だった。しかし、近年では新興メーカの台頭が目覚ましく、確かな実力を身に付けることで徐々に存在感が高まっている。

例えば、中国の重機メーカといえば、これまでは機械のアフターサービス面に難点があるというイメージがあったが、ノウハウを吸収するなかでサポート力が向上。日本製の部品を使用するといったことで品質も高め、その価格競争力を背景に大きな躍進を遂げている。

一方で、欧米や日本の建機メーカは、建機がコモディティ化し始めたことで、これまでなら機械の性能と品質で差別化を図れたところが、徐々に難しくなりつつある。さらに、林業やリサイクル業といった土木以外の分野で使用される重機についても、これまでのように市場を独占するというわけにはいかなくなっている。

現場の課題解決に役立つソリューションを提案

こうした厳しい市場の変化に対応し、今後の重機における事業戦略を担う部署として新設されたのが、施工ソリューション部だ。部長の山本昇司によると、同部署はコベルコ建機におけるi-Construction(アイ・コンストラクション)の取り組みを担当するICTホルナビ推進室を前身とする。

「施工ソリューション部には、ICTホルナビ推進室でICT建機に関わってきた人材が顔をそろえるとともに、新部署の発足に伴って新たに技術スタッフの面々が加わりました。営業促進と技術開発という両部門の距離が近くなったことで、営業がキャッチした顧客ニーズをより迅速に新たな製品開発へフィードバックすることが可能になります」

施工ソリューション部の発足によりコベルコ建機が実現しようとしているのは、ずばり「ユーザ現場主義」だ。今までも同社では、この考えのもとで重機の効率的な活用方法を提案してきた。しかし、今回新設された部署は、見ている視野がより広い。それは、いわばモノからコトへとビジネスモデルを拡大することを意味している。

「重機の使い方など、モノまわりの提案を行うだけにとどまらず、今後は現場が抱える課題に着目し、その解決に役立つコト=ソリューションも提供していきたいと考えています」

中小規模工事でもICT建機による効率化を推進

施工ソリューション部が、今後注力していきたいと考えている分野が中小規模工事だ。これまでコベルコ建機は、前述したようにi-Constructionを推進すべくICT建機の普及に努めてきたが、それは大規模工事を対象とした限定的なものだった。しかし、公共事業でいえば、大規模工事は全体の約1割にすぎない。残りの約9割は中小規模の工事が占める現状を考えると、この分野でもICT建機の活用を推進することは、ユーザにとっても今後の成長に大きな影響をおよぼすのは明白だ。

「中小規模工事のなかでも、無電柱化工事に関するソリューションについては、ICT建機の活用を含め、地中探査などの取り組みもすでに始めています。無電柱化は、昨今の自然災害の被害に対する有効な施策になり得るため、2050年までに市街地の緊急輸送道路はすべて無電柱化にする国の指針も出ています。そのため今後、工事が早急に進められると予想され、より早くマーケットインすることが重要だと判断しました」

 施工ソリューション部が提案を推進しようとしている分野は、土木だけに限らない。これまで土木の現場で活躍してきた重機を、林業やリサイクル業などの業務に合わせて最適化し、それぞれの専用機を開発してきたように、環境分野でも現場の課題を解決する提案を行っていく予定だ。

「最終的な目標は、お客様に『コベルコ建機に相談してよかった』と思っていただくこと。それこそが、メーカとしての存在価値なのですから」

コベルコ建機の中小規模工事向けソリューション

SOLUTION 13tクラス用の新型チルトローテータ

バケットの傾きと回転を自在にコントロールできるチルトローテータとは、十数年前から欧州で活用されてきたスウェーデン・エンコン社製のショベル用特殊アタッチメントのこと。近年では日本でもメジャーな存在となり、全国各地の土木工事の現場で活用されている。

これまでは中型以上のショベルでしか使用できなかったが、2021年3月より3tクラスのミニショベル用チルトローテータが新たに登場。中小規模工事では、3tクラスのショベルしか進入できないような狭いスペースでの作業も多いため、最小限の移動で作業可能なチルトローテータは、例えば無電柱化工事の床掘りなどでも力を発揮する。人力のスコップ作業の代用はもとより、チルトと回転機能の合わせ技でより効率的な施工が可能になる。中型クラス用のチルトローテータで好評だった、作業に合わせて適切なバケットに油圧でワンタッチ交換ができるクイックヒッチ機能も利用可能だ。

すでに導入している現場もあり、今後はその数の増加が見込まれる。中小規模工事における狭所作業の効率を飛躍的に向上させる切り札として、さらなる工期短縮にも大きく貢献するはずだ。

チルトローテータ ラインナップ

SOLUTION 2地上からスキャンして地中を探る地中探査

無電柱化工事では、ガス管や上下水道管、通信ケーブルなどが埋設されている場所を掘削するため、それらをショベルで傷つけてしまう損傷事故が少なからず発生する。しかも、埋設物などの情報が不正確で、図面にないものが埋まっていることも多く、ショベル作業も慎重にならざるを得えないため、工事には思いのほか手間と時間がかかっていた。

そこで、コベルコ建機の施工ソリューション部では、地中探査のオーソリティーであるジオ・サーチ株式会社と連携。無電柱化工事に役立つ地下マップのデータ作成ソリューションを完成させた。これまでジオ・サーチが作成していた地下の図面データにプラスして、掘削可能な範囲を示すバリアデータを新たに作成。2つのデータを合わせてつくり上げた地下マップの3DデータをICT建機で活用することにより、作業時間を従来の3分の1にまで短縮できるなど、より迅速かつ効率的な施工が可能になる。

無電柱化工事のためのこうした新たなソリューションは、千葉・幕張で開催された「CSPI-EXPO2021」で発表され、多くの企業や自治体から高い注目を集めるとともに、現在も数多くの問い合わせが寄せられている。

国土交通省が2021年から5年間で約4,000㎞におよぶ無電柱化工事を推進する事業計画を発表しているなかにあって、ジオ・サーチとの連携により生まれた本ソリューションが、その推進の一端を担う可能性は非常に高いといえるだろう。

SOLUTION 37t以下の小型ショベルでも、3DMGで現場を効率化

費用面やGNSSアンテナの設置箇所がとれないなどの問題から、小型ショベルではこれまで行えなかったICT施工。現状、コベルコ建機としては、小型ショベル用の3Dマシンガイダンスシステムとして、当該マーケットのお客様にすでに馴染みのある測量機器を使用した「杭ナビショベル」を中心に、ICT建機の提案を実施している。

詳細
山田高広= 取材・文 神保達也= 撮影 text by Takahiro Yamada / photographs by Tatsuya Jinbo