コベルコ建設機械ニュース

Vol.254Nov.2021

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ピンチをチャンスに変えた
ICT施工のトップランナー

時代に合わせて常に変化し続けることは、会社経営にとって重要なポイントの1つといえる。長野県の市川建設株式会社では、他社との差別化による競争力アップを目的に、業務改革を決断。同県北信地域ではまだ珍しいICT施工の導入にいち早く踏み切ることで、売上拡大につなげている。

時代に合わせて常に変化し続けることは、会社経営にとって重要なポイントの1つといえる。長野県の市川建設株式会社では、他社との差別化による競争力アップを目的に、業務改革を決断。同県北信地域ではまだ珍しいICT施工の導入にいち早く踏み切ることで、売上拡大につなげている。

2030年までに自社工事の
100%ICT施工化を目指しています

常務取締役 市川 渡さん

ICT施工を切り札に
業務改革を実現

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道路建設の現場で稼働する杭ナビショベル仕様機は、地盤改良のほか、法面整形にも活躍中。経験の浅いオペレータでも熟練者並みの高い精度で仕上げられる

市川建設株式会社の創業は明治時代にまで遡る。1907年に市川工業所として設立後、50年に法人化。1世紀にわたり土木一筋で事業を営んできた100年企業だ。

常務取締役の市川渡さんは、99年の入社後、現場での仕事に従事し、ショベルのオペレータなども経験。5年ほど前から現職に就き、経営に参画し始めた。

「その当時は仕事数も少なく、入札も取れない厳しい状況下にありました。このまま他社と同じことをしていては生き残れない。そう考えて目をつけたのがICT施工です」(市川さん)

そこで市川さんがまず初めに行ったのが、ICT施工を導入している全国の土木事業者を視察すること。関東各県や福島県、ホルナビ・ジョブサイトにも訪問し、事業者に話を聞いて回った。実際に機械に搭乗させてもらい、自ら動かしてみるなかで、その生産性の高さに魅了されたという。

「自分たちが取り組むべきは、これだと確信しましたね」

そして2019年、ついに20tクラスのコベルコ建機製3Dマシンコントロール(以下、3DMC)搭載機を2台導入。ICT施工への第一歩を踏み出した。

同社がICT施工の導入を行う上でこだわったのが、徹底した内製化を図ること。そのために、起工測量用のレーザースキャナ、3次元設計データの作成ソフトなど、必要な機材をそろえるとともに、測量のエキスパートもスカウトしたというから驚きだ。

「これからICT施工に力を入れていきたいから、力を貸してくれと口説かれました」と振り返るのは、測量担当の岸本由知さん。現在、ICT施工に欠かせない3次元設計データの作成を一手に担うなど、内製化の要として活躍中だ。

「途中の設計変更は土木工事ではよくあることですが、3次元設計データの作成を内製化していれば、迅速な対応が可能です」(岸本さん)

ICT施工をトータルでできることは、元請けや役所からの好反応にもつながっている、と市川さん。初期投資はそれなりに要するものの、生産性はもちろんのこと工期短縮への効果は計り知れず、ICT施工導入後の市川建設の売上高はおよそ3倍にまで向上したという。

3Dマシンガイダンスで
仕事の生産性がさらにアップ

2021年9月、市川建設に2台のICT建機のラインナップが新たに加わった。7tクラスと13tクラスの「トプコン杭ナビショベル」仕様機だ。杭ナビショベルとは、小型機でもICT施工における3Dマシンガイダンス機能を活用できるように開発されたシステム。現在、2台の杭ナビショベル仕様機は、商業施設の新設に伴って新たにつくられる道路の建設工事に従事していた。21年4月に着工した現場において、地下80cmまでを攪拌しての地盤改良がすでに終了済みで、掘削深度を設定してモニタを見ながら作業を正確に行えるマシンガイダンス機能により、以前と比べ2割から3割は作業時間を短縮できたのではないかと市川さんは語る。測量担当の岸本さんは杭ナビショベルならではのメリットについて、「基準点を任意に設定できるので、作業スペースが狭い小規模工事には最適です」と話してくれた。

一方、本現場でICT建機での作業を体験したのがオペレータの松本昇さんだ。

「重機を降りての確認作業や手元作業員が不要となり、現場の効率は格段に上がりました。機械周辺に人がいなくなったことで、現場の安全面が劇的に向上したのもありがたいですね」(松本さん)

今後は、杭ナビショベル仕様機を、大きなショベルでは難しい側溝の掘削といった小規模工事で活用したいと意欲を見せる市川さん。現在、同社の業務の約50%がICT施工だが、それを100%にまで上げるのが目標だという。

「GPSが入りづらい山間部での砂防堰堤工事や、建築現場での地盤改良工事にも活用できるのではないかとも考えています」(市川さん)

小型ショベルによるマシンガイダンスの可能性は、現在も広がり続けているようだ。

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ショベル側に設置したプリズムを杭ナビ(LN-150)が追尾し、ショベルの位置を正確に把握。3次元設計データと刃先の座標値を比較し、設計面との差をタブレット画面に表示させる

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従来の自動追尾TS(トータルステーション)を簡易かつ安価にした杭ナビ(LN-150)

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測量担当として、市川建設におけるICT施工の内製化に貢献する岸本由知さん。「現在、3次元設計データの作成やショベルへのデータ入力を行えるのはごくわずか。今後は後進を育成することにも力を入れていきたいですね」

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入社8年目になるオペレータの松本昇さん。「杭ナビショベル仕様機には初めて乗りましたが、説明を聞きさえすればすぐに操作可能です。ゲーム感覚で作業が行えるので、若い人ならなおさら簡単に使いこなせるのではないでしょうか」

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本現場では7t、13tクラスの杭ナビショベルのほかに、20tクラスの3DMC搭載機も稼働。市川建設のICT施工の様子は同社YouTubeチャンネルでも紹介されている

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今回の訪問先は矢印

市川建設株式会社
長野県須坂市大字福島91番地 
tel 026-245-3214
http://ichikawa-kk.com/
山田高弘= 取材・文 神保達也= 撮影 text by Takahiro Yamada/photographs by Tatsuya Jinbo