コベルコ建設機械ニュース

Vol.256Apr.2022

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KOBELCO TOPICS CK230SR 開発ストーリー
開発ストーリー

狭所作業の新たな可能性を切り拓く
CKシリーズの最上位モデル
『CK230SR』開発ストーリー

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CK230SR

今回のストーリーは矢印

CK230SR
油圧ショベルの後方超小旋回のコンパクトボディを採用。このサイズで最大10tのつり上げ能力は
国内でCK230SRのみ。
地下や高架下での工事など、狭小地での作業に威力を発揮する
  • 阿久津 大惟 技術開発本部
    クレーン開発部
    テレスコクレーン開発グループ


    2017年入社。CK230SRの開発では、全体のまとめ役とともにクレーン部門とショベル部門間の調整役も担当。「ショベルベースのクレーンを新たに開発する際には、今回の経験が活きるはず。次回はよりスムーズに開発できると思います」

  • 櫻井 仁士 システム・コンポーネント開発部
    クレーン統合システム開発グループ


    2008年入社。CK230SRの制御ソフトウエアの開発を担当。「ショベルのシステムに関する知見がなかったため、新入社員に戻ったような気持ちで日々開発に取り組みました。苦労した分、1号機の納品を聞いたときは本当にうれしかったですね」

  • 君谷 司 開発試験部
    クレーン試作試験グループ


    2013年入社。G-2シリーズにおける協調制御やパワープラントなどの設計・評価を担当してきた経験を活かし、20年からは試作機の試験を担当。「設計者に厳しい要求を何度もしましたが、しっかり応えてもらえたことで信頼関係が深まりました」

  • 田中 祥平 生産デジタル化推進グループ
    新機種組立チーム


    2018年入社。ショベルの製造ラインでクレーンのベースマシンの量産を成立させるべく、製造と開発の橋渡し的な役割を担当。「普段携わっているショベル開発とは異なる視点・考え方に触れ、視野を広げることができ、成長を実感しました」

  • 宮川 昌子 開発企画部
    業務改革推進グループ


    2015年入社。クレーンとショベルにおける設計領域など、システム面の違いによる課題をクリアするためのサポート業務を担当。「メンバー間の意思疎通に苦労したため、次期基幹システムにおけるシステム統一の必要性を実感しました」

近年、都市部の再開発やインフラの更新などが加速している。それに伴い作業スペースが狭い現場や、橋梁下、高架下などの高さ制限がある現場が増加しており、狭小地で効率的に作業できるクレーンが求められている。

そこで、CKシリーズ(小型テレスコピッククローラクレーン)のCK120UR(4.9tづり)に次ぐモデルとして、10tづりのクレーン能力を備えた機種をラインナップした。それが「CK230SR」だ。2021年11月に発表された同機の開発では、油圧ショベルの開発で培ってきた後方超小旋回のコンパクトボディと、クレーン開発で長年培ってきたテレスコピックブームの技術を融合。ショベルとクレーン、両部門の技術者がタッグを組み完成させた機械となった。

既存計画とお客様の要望が合致して開発がスタート

「もともと、ショベルをベースにして既存のブームとの組み合わせで開発できるクレーンのラインナップを増やす計画があったところに、お客様からの要望が重なった」と話すのは、開発全体の統括を担った阿久津大惟だ。
「繁華街の雑居ビルなどの狭い現場で、基礎工事用の機械を組み立てるのに適したクレーンがほしいというお話をお客様から聞きました。今までのCKシリーズではつり上げ能力が足りず、大きなクレーンを入れるには狭すぎる現場だったため、機械を組み立てることができなかったという内容でした。また、ベースマシンは狭小地での使い勝手を考えると、通常型ショベルと後方超小旋回のどちらが良いのかといった課題もあり、お客様との意見交換を通して検討。その結果を受けて開発をスタートさせました」

すでにある技術資源を組み合わせて、新たなクレーンを開発するために、クレーン側が設計を担当し、ショベル側で本体部分の生産を行うという役割分担を決定。阿久津には、開発プロジェクトのまとめ役とともに、両部門の調整役という重要なミッションも託された。

試作機によるテストを繰り返し操作性を磨き上げる

ショベルのボディとクレーンのブームという異なる機械のパーツをつなげつつ、スムーズな操作性を実現するには、制御システムのソフトウエアであるメカトロコントローラの作り込みが重要。それを担ったのが櫻井仁士だ。
「ベースとなったのは、油圧ショベルSK225SRの制御ソフトウエアです。これをもとにCK230SR仕様のソフトウエアを開発したのですが、私の専門はクレーンの油圧制御であり、ショベルの制御システムに関する知見がまったくありませんでした。そのため、まずはショベルの制御システムを把握することから始めたのですが、それを理解するために多くの時間を費やしました」

ソフトウエアをはじめとする各種仕様書をもとに作り上げた試作機の品質評価テストは、君谷司が担当。特にこだわったのは、機械の操作性だった。
「油圧式の機械は、作動油で各種シリンダーや油圧モーターなどを動かしています。作動油の流量をコントロールするバルブやスプール、ソフトウエアは、設計担当に試験結果をフィードバックし、何度も作り直してもらいました。そうして操作性をとことん追求した結果、市場に受け入れられる操作性を実現できたという自負があります。さまざまな制約があるなかで、それらのバランスをとり、最適解を導き出せたと考えます」

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旋回後端半径は1,680mm。現場での占有面積が最小限に

ショベルの開発陣との連携で量産に向けた生産体制を確立

CK230SRの開発では、本体に油圧ショベルのボディを使うことから、ベースマシンの生産をショベル部門の広島・五日市工場で行っている。ショベルの製造ラインでクレーン部門が設計・開発したクレーンを生産するのは初めての試み。この実現に力を注いだ田中祥平は、こう振り返る。
「私の役割は、製造と開発の間に立ち、量産に向けた組立に関する最適解を見つけること。今回の開発でも立ち位置は変わりませんが、CK230SRでは主開発を兵庫・大久保のクレーン開発部隊が、ベースマシンの生産を広島・五日市のショベル生産ラインが担うという点が通常とは異なりました。コロナ禍により、兵庫・大久保の開発陣が五日市工場に来て、生産ラインの現状を確認するのが難しい状況だったため、組立不具合をオンラインで大久保の開発陣と確認しつつともに改善方針を立てていきました。今回の開発では、ショベルの本体にクレーン専用のテレスコピックブームを装着するためにアダプタを取り付けているのですが、他のショベルと共存して生産できる取り付け工程の提案と構造提案も行いました。現在では問題なく生産できてひと安心です」

一方、田中と同様に広島・五日市に籍を置く宮川昌子は、ショベル部門とクレーン部門の設計領域や販売領域における、システムの違いから生じる課題解決に取り組んだ。 「設計時に作製するCADなどの製品データや、BOM(部品表)などの設計技術に関する情報を一元管理するPDMシステム(製品情報管理システム)は、クレーンとショベルで異なります。そのため開発から生産、発注業務まで支障が生じないよう配慮が必要でした。最も大きな課題は、生産において重要なBOMがクレーン、ショベルで固有のルールにもとづいて作成されていることに起因するコミュニケーションの難しさでした。今回は、クレーン側の皆さんにBOMをショベルのルールに合わせて作成してもらいました。その際、クレーンとショベルのPDMシステムや、もともとのBOM作成ルールが異なることから、開発メンバー間での意思疎通が成立しづらかった面があり、オペレーション的な説明や支援にはかなり苦労しました」

クレーン部門とショベル部門の力を結集して作り上げたCK230SRは、そのつり上げ能力やコンパクトボディ、最大21.2mにおよぶブームの長さなども好評を博しているという。CK230SR が、クレーンの狭所作業における新たな可能性を切り拓いていくはずだ。

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山田高広= 取材・文 那須亮太、木下裕介= 撮影 text by Takahiro Yamada/photographs by Ryota Nasu, Yusuke Kinoshita