コベルコ建設機械ニュース

Vol.270Oct.2025

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特集コベルコ教習所のアイデンティティ
現場の安全を支える人材育成を目指して

コベルコ教習所のアイデンティティ

コベルコ教習所は、2025年4月に設立20周年を迎えた。
教習を通じて現場の安全を支えるという使命のもと、
建機などの資格取得のみならず、さまざまな現業のニーズに応えて、
技能講習、安全衛生教育などを提供してきた。
現在、全国14拠点で事業を展開、これまでの総受講者は170万人を超える。
2025年1月からeラーニングを開始するなど、時代の変化に対応しながら、
社会の期待に応えている。

PART 1 TOPに聞く

コベルコ教習所 明石教習センター
コベルコ教習所 明石教習センター

一貫して追求してきたのは
現場の安全を支えること

2025年6月、コベルコ教習所の代表取締役社長に澤乃里子が就任した。
コベルコ建機グループとしては初の女性社長の誕生だ。澤はフロント担当として入社し、教習所の発展とともにキャリアを積み上げてきた。これまでの経緯、コベルコ教習所の考え方、将来像などを聞いた。
コベルコ教習所株式会社
代表取締役社長
澤 乃里子
2005年コベルコ教習所に入社。以来、教習所の新拠点立ち上げや基幹システムの導入、経営理念の浸透といった数々のプロジェクトを手がける。2022年業務部業務部長、23年取締役を経て、2025年6月から現職

「コベルコ教習所の存在意義は、現場の安全を支えること。これは創業時から一貫しています。教習や資格取得を通じて現場での事故を減らし、安全を守ることで社会に貢献しています」

澤はアパレルなどいくつかの業界でキャリアをスタートし、土木・建設業界についてはまったく知見がなかったという。しかしもち前のコミュニケーション力、課題を見つけると放っておけない性格で、徐々に教習所の改革にも携わるようになる。「教習所の社風や上司に恵まれましたね。改善したいことに気づき企画を出すと、自由にやらせてもらえました」。

まず取り組んだのは教習所の認知度を上げることだった。コベルコ建機の関係者向け教習所としてとらえられがちという課題があったからだ。

「グループ内の社員ですら教習所のことをよく知らない人が多かった。そこで社内報を制作して啓発したり、看板、新聞広告、ラジオCMなどによる告知に力を入れました」

その後、インターネット時代に入ると、澤はウェブサイトも任されるようになった。

「特に重要だと思ったのは、現場でその機械を扱うためにどんな資格が必要なのかを知ること。初期の頃は、それを知らないがゆえに無資格のままでいた人が少なくなかったのも事実です。ネットではそうしたことも分かりやすく伝えているつもりです」

現在、顧客の8割は法人で、業務に必要な資格を従業員に取得させることが主流だ。残りの2割は個人で、業務の幅を広げたり、転職を想定して資格取得を目指す人にも活用されている。

受講者本位の視点で講習メニューを拡充

コベルコ教習所の強みの核にあるのは受講者本位の姿勢だ。「ショベルやクレーン以外の技能でも、ニーズがあれば講習メニューに加えています。これは、この教習所がまだコベルコ建機のカスタマーサポート部の一部署だった頃、『フォークリフト運転技能講習』を始めたのが一つの契機でした。建機のレンタル会社は建機だけでなく、フォークリフトも貸すことが少なくないため、教習の必要が見込まれたからです」。

こうした発想が講習メニューの豊富さ、多彩さにつながっている。ほかにも建機と直接関係のないものとしては『床上操作式クレーン運転技能講習』、『はい作業主任者技能講習』などの講習もある。

こうした受講者本位の姿勢は、法改正への迅速な対応にも表れている。

建機メーカゆえに、さまざまな最新機種の建機がラインナップ可能
建機メーカゆえに、さまざまな最新機種の建機がラインナップ可能

「法改正があると、新たな資格や教育が必要になることが多く、講習メニューも増やします」

例えば2014年に労働安全衛生規則が改正され、林業機械運転が規制対象となったことから、『林業機械運転特別教育』の講習を始めた。また2023年にはやはり同規則の改正によって『テールゲートリフターの操作の業務に係る特別教育』が義務づけられたことから、そのための講習を用意した。

「また、あらゆる分野で安全や衛生の需要が増しているため、専門業務ごとに安全衛生教育を提供しています。個々の企業でも安全衛生教育を実施することは可能ですが、現実には中小企業では難しく、またコンプライアンス意識の高まりもあって、教習所に任せてくださるケースが多いですね。安全衛生教育はメニューも受講者数も急増しました」

日程の多様さ、柔軟性も、受講者視点に立った強みといえる。「ほとんどのお客様は日常の業務を続けるかたわら、時間を確保してなるべく早く資格を取りたいと思っているものです。それには同じ講習を複数の曜日で受講できることが望ましい。この点には非常に力を入れ、知恵を絞って講習スケジュールを設計しています」。

これらの強みの土台となっているのが、コベルコ建機ブランドへの強い信頼だ。「コベルコ建機グループが教習を始めたのは、分社化される前の1962年からです。この長い歴史、そして、これまでの総受講修了者数170万人以上という実績が信頼の礎となっています。会社の先輩や上司が教習を受け、今度は自分が受けるという継承事項になっている企業もあります」。

より広く講習を提供するため、eラーニングを開始

時代の変化に対応した新機軸も打ち出している。

「最近では、法令の枠を超え、技能や職種にこだわらない『危険体感教育』を始めました。これはさまざまな設備・機器を使い、危険を自分の体で安全に体験できるという内容です。痛み、衝撃などを実感すると、より真剣に安全を考える契機になります。これは“現場の安全を守る”という当社のアイデンティティにも直結するものだと思います」

教習所は現在、運転資格取得のための実技教習、技能講習、特別教育および安全衛生教育合わせて53講習を提供し、拠点は全国14道県に11センターを設置している(サテライト会場を含めると14拠点)。「さらに地域を広げて講習をしたいと考えていますが、拠点を増やすことはなかなか難しい。そこで2025年1月からeラーニングを開始し、特別教育、安全衛生教育をウェブ上で受講できるようにしました。今後もeラーニングのメニューを増やしていきたいと考えています」。

言うまでもなく、建設・土木業界の喫緊の課題は労働力不足だ。それを反映して外国人の受講者も増えている。「しかし、対応しなければならない外国語が多岐にわたる、日本語会話ができても専門用語をよく知らない、母国に労働安全衛生法の概念がない、といったことから、資格取得へのハードルはまだまだ高く、講習における課題となっています」

女性受講者も増えたが、それでも全体の5%ほどだという。「将来、遠隔操作などの技術が高まれば、女性や高齢者にも活躍の可能性が広がりますが、それでも現場体験は欠かせません。そうなると現場を体験してもらう講習も新たに必要になるのではないでしょうか」。

どれほど機械が発展し、安全度が高まっても、新たな形の安全が求められるようになる。「そこには作業する人間の意識、行動様式が関係しています。そうしたことも含め、安全を守り、事故を減らすことは、これからもコベルコ教習所の重要な存在意義であると思っています」。

安全を支えるのは人材育成のクオリティーです

PART 2 コベルコ教習所 ココが魅力

魅力01

半世紀以上の歴史をもち、
多彩な講習メニューで現場ニーズに応える

  • 堀江 雄樹
    拠点統括部
    営業企画グループ グループ長
  • 土岐 吉輝
    拠点統括部 部長
豊富な講習メニューで安全を支える

コベルコ教習所の前身は1962年に設立された神戸製鋼所の神鋼建設機械大久保教習所と、それに続いて設立された油谷重工広島製作所の油谷特殊車輌技術教習所だ。その後、全国各地に教習センターを開設し、2005年にコベルコ建機から分社化され、コベルコ教習所株式会社としての第一歩を踏み出した。

以降、着実に拠点を増やし、現在、全国14道県に14拠点(11センター、3サテライト会場)を有している。講習メニュー数は分社化される前は15講習程度だったが、現在では53講習まで増やした。

講習は大きくは3種類からなる。免許証や技能講習修了証などを取得するための「実技教習・技能講習」、労働安全衛生法第59条第3項に定められた「特別教育」、労働安全衛生法第60条および60条の2に定められた「安全衛生教育」である。

この講習メニューの豊富さが教習所の大きな魅力であり、“資格を取るならコベルコ教習所”という評判につながっている。「現状の申し込みは6割がウェブサイトから。少人数の場合でも予約があれば講習を実施しますし、当日の申し込みでも空きさえあれば実施します」(拠点統括部 営業企画グループ グループ長の堀江雄樹)。

講習品質を標準化し、充実させる

コベルコ教習所の講師は170人以上に及ぶ。10年ほど前まではコベルコ建機からの出向者が中心だったが、現在は8〜9割が社外から採用した人材だ。技能講習を指導する講師となるには、資格取得後約5〜10年以上の実務経験が必要条件。ここにはそうしたプロが集まっているわけだ。

「講師には、時間管理や受講者への指導姿勢など、規範の面でも厳しい要件を課しています」(拠点統括部 部長の土岐吉輝)

講師の職歴が多岐にわたるため、コベルコ教習所では2023年までに約5年をかけて講習品質の標準化、その充実を図った。実技要領を作成し、主要テキストを内製、補助教材のパワーポイントやDVDの内容も統一。さらに講師にはTTC(コベルコ建機 神戸テクニカルトレーニングセンター)のeラーニング講座を受講してもらうことで、機械の構造など常に最新の知識を保持できるようにした。TTCとの連携はこれに限らず、今後もさらに推進される予定だ。

実務経験があるプロであることはもちろん、最新の機械構造や指導姿勢を常に学び続ける講師たちによって、標準化された多彩な講習メニューを提供する
魅力02

建機メーカだからこその
新しい機械や安全衛生教育への対応

高性能林業機械の講習で貢献

コベルコ教習所にとって、建機メーカならではの強みが、講習の内容にも表れている。

象徴的な例が、『林業機械運転特別教育』だ。日本の林業はチェーンソーに頼る時代を経て、高性能林業機械を導入して安全に生産性を高める時代へと進化している。コベルコ建機では伐採、集材などの作業を行うための林業機械を開発しているが、林業での労災事故は多く、2014年の法改正によって、林業機械を運転するには特別教育の修了が必要となった。 

「林業機械の講習をする機関は全国にそれほど多くはないですが、コベルコ教習所では講習を実施しています。また、各県の林業協会の講習は遠方で開催されることが多く、ユーザにとってアクセスしづらい点も挙げられます。そんなとき当教習所とコベルコ建機で共同事業ができないかという話がもち上がり、それが現在の講習に結実しました」(土岐)

講習では、安全な操作、基本的知識を教えることに力を入れた。実技に最新鋭の林業機械を使えるのもメーカだからこその強みだ。講師がより深い知識を習得できるよう、コベルコ建機とアタッチメントメーカから人を招き、勉強会を開いて機械の操作を学ぶところから始めた。この講習によって現場では労災の削減、コベルコ建機にとっては高性能林業機械の普及に役立つことが期待される。

林業機械をはじめ、掘削などさまざまな現場に即した建機が揃えられるのもメーカならではの強み

講習は、明石と市川の教習センターで始め、尼崎、岐阜、熊本、北海道でも実施している。今後さらに増やしていく予定だ。

危険を疑似体験し、安全へと活かす

『危険体感教育』は近年、注目される安全教育の一つである。労働災害のデータを見ると、死亡者数は長期的には減少傾向にあるが、休業4日以上の死傷者数は増加している。「これは建機の進化、コンプライアンス意識の浸透、法整備などが功を奏して死亡者が減る一方、危険に対する感受性が低下したためと考えられます。そこで、特殊な装置・設備を使って、安全な状態で、滑り転倒、落下物衝撃、巻き込まれる、挟まれるといった経験を体感できる『危険体感教育』を提供しています」(堀江)。

【危険体感教育のための機器】感電体感
【危険体感教育のための機器】重量物挟まれ体感

座学や体験談を聞くことにとどまらず、自ら体験をすれば、危険への感受性や予測能力が高まるという効果がある。「各企業にはそれを活かして安全対策を改善していただければ、と思っています」と堀江は想いを語る。

『危険体感教育』は2025年度から開講し、下期(10月〜)から明石教習センターで定期開催がスタートした。2026年度からはほかの拠点でも定期開催する予定だ。

危険体感教育には、今後注力していきます
魅力03

受講者の視点でつくり上げた
フレキシブルなスケジュール体制

柔軟な講習日程によって受講者ニーズに応える

コベルコ教習所では、受講者がそれぞれの都合に合わせて利用しやすくすることに注力している。特に免許証や講習修了証がすぐに必要な人は、なるべく短期間に講習を終えたいと考えるからだ。

そのため、講習メニューを豊富に揃えるだけでなく、土日にも開講したり、同月に複数回の同じ講習を用意するなど、柔軟なスケジュール設計をしている。

一般的な受講の流れは、予約、申し込み、受講となっているが、講習を終えると即日で修了証を交付するのも、すぐに業務に入りたい受講者にはありがたい仕組みだといえる。

受講者の利便性に配慮しeラーニングを整備

コベルコ教習所には常により多くの地域の方々に講習を提供したいという想いがある。「しかし教習センターから遠い地域の方が受講するには、移動時間や費用の負担がどうしても大きくなります。そこで地理的、時間的な制約に縛られない手法として2025年からeラーニング講習を開始しました」(堀江)。

現在のeラーニングの講習メニューは労働安全衛生法にもとづいた特別教育4種類と、安全衛生教育1種類で、具体的には『粉じん作業特別教育』、『酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育』、『石綿使用建築物等解体等特別教育』、『足場の組立て等作業従事者特別教育』、『振動工具取扱作業者安全衛生教育』というラインアップだ。

2025年11月に『フルハーネス型墜落制止用器具を用いて行う作業に係る特別教育』の開講を予定し、25年度中には『自由研削といしの取替え業務等特別教育』の追加を計画している。今後も新しい講習を増やしていく予定で、受講者の利便性拡大を目指している。「多忙な方々、拠点から遠方に在住の方などのお役に立てればと、期待しています」(堀江)。

いつでも、どこでも、スマホからでも受講可能なeラーニングは、場所や時間の制約を超えてコベルコ教習所の講習が受けられる。今後も新講習がぞくぞく誕生予定
将来に向けて課題に取り組む

eラーニングに加えて外国語での講習にも取り組んでいる。外国人労働者の増加に伴う対応だが、現時点ではベトナム出身の労働者が多いため、2年ほど前からベトナム語での講習を定期開催している。

また、近い将来に向けてシミュレーターやVR設備の導入も視野に入れている。

土岐は、受講者が単に教習所の顧客で終わらず、コベルコ建機のファンになってもらえるようにしたいと語る。「そのためにも、常に私たちが笑顔で働ける職場づくりを心がけています。それがコベルコ建機のブランド価値を高めることにもつながると考えています」。

eラーニングを活用して、さらなる利便性アップを目指します
  • 織田孝一= 取材・文 text by Koichi Oda
  • 三浦泰章= 撮影 photographs by Yasuaki Miura