コベルコ建設機械ニュース

Vol.243Jan.2019

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KOBELCO TOPICS TK550G 開発ストーリー

従来の頑丈な構造を維持しつつ、高い輸送性と組立性を実現

開発ストーリー

コンパクト設計により
狭所作業も
効率的に実行する
55tクラスの
新TK-Gシリーズ

TK550G

今回のストーリーは矢印

TK550G
従来のTKシリーズから継承した頑丈な構造に、輸送性や組立性などのユーザメリットをプラス。都市部を
中心とした狭所現場での活躍が期待される、テレスコピッククローラクレーンTK-Gシリーズの55tクラス新モデル
  • 森本雄也 マーケティング事業本部
    営業促進部
    クレーンマーケティンググループ


    2011年入社。「これまで生産技術担当として、国内外の工場などで生産環境の向上を支援してきました。その経験を活かしつつ、市場ニーズにマッチした開発思想を見出しました」

  • 中澤 亨 GEC開発本部
    クレーン開発部
    テレスコクレーン開発グループ
    マネージャー


    2003年入社。電気設計エンジニアとして「パンサーX 250」の開発などを歴任。「プロジェクトを牽引しつつ、開発メンバーが集中して仕事ができる環境づくりにも注力しました」

  • 北村勇樹 マーケティング事業本部
    クレーン営業本部 クレーンCS部
    東日本サービスグループ


    2007年入社。本プロジェクトでは、初期段階のコンセプトワークから参加。「給脂口の配置といった細部にいたるまで、お客様の声を反映するアイデアを提案しました」

  • 井口光明 GEC開発本部 要素開発部
    油圧要素系開発グループ


    2015年入社。「今回のプロジェクトでは、おもにウインチの開発に従事しました。オペレータの感覚と直結させたブレーキングをはじめ、メンテナンス面でも使い勝手の向上が図れました」

  • 久保貴史 GEC開発本部 クレーン開発部
    テレスコクレーン開発グループ


    2016年入社。設計分野を中心にカスタム対応も担当。「プロジェクトには途中参加でしたが、さまざまなノウハウを吸収できました。これを今後の開発に活かしていきたいですね」

2017年、TK-Gシリーズの最新作である75tクラスの「TK750G」を発売。コベルコ建機のクレーン技術で培った従来の頑丈な構造やパワーはそのままに、「最小輸送幅2.99m未満」を実現し、基礎土木作業やその相番機としての活躍で、高い評価を獲得してきた。そして18年6月、この思想を受け継ぐ55tクラスの「TK550G」が、満を持して登場した。従来のTKシリーズから継承した頑丈な構造に加えて、高い輸送性と組立性を兼備。TK750Gの上市から約1年の期間を経て、75t機のフィールドとは異なる市場ニーズに対応し、都市土木工事などの狭所現場でも機動力を発揮するマシンとして注目を集めている。

ジグソーパズルのように複雑な
難題解決に挑戦

 TK550Gに先立って開発されたTK750Gは、従来のTKシリーズの魅力を維持しながら、排出ガス2014年規制をクリア。さらに、最小輸送幅2.99mのコンパクトボディの実現で、トレーラ輸送に伴う「特殊車両通行許可」への書類作成が不要に。申請の煩雑さや、認可されるまでのリードタイムも削減でき、稼働時間のロスといった問題を解決した。
 今回のTK550Gの開発においても、基礎土木を中心とした過酷な現場で活躍できる従来の魅力を継承しつつ、輸送性などの付加価値をプラスするという基本思想は同じだった。しかし、単純に75tから55tへのスケールダウンを図ったわけではない。市場ニーズを開発部門へ還元するマーケティングの視点から開発コンセプトの形成に携わった森本雄也は、55tクラスの新モデルを開発した意義をこう語る。
「TK550Gは最小輸送幅に加え、クローラ縮小時の最小幅も2.99mですので、自走して現場に入ることが可能です。20年の東京五輪を契機に、その後も続くであろう都市部の再開発事業などでは、狭所現場も多くなることが想定されます。従来機よりもコンパクトなTK550Gなら、そうした現場でも活躍できるはず。車幅は小さくなりましたが、可能性は大きく広がるのです」
 ただ、これらを実現するためには、従来機種の強度やパワーを保ちながら、全体のコンパクト化と同時に軽量化を図ることが必要だった。今回の開発プロジェクトリーダーを務めた中澤亨は、その苦労をこう振り返る。
「そもそも剛性と軽量化、空間と油圧配管や各種ケーブルの取り回しなどは相反する要素です。TK750Gのスケールダウンモデルとしての制約条件があるなかで、どちらかを立てれば片方が立たないといった、難解なジグソーパズルを解くような難しさがありました。しかし、この難易度を技術者の腕の見せ所であると捉え、それをモチベーションに、一つひとつ最適解を探り課題解決を試みました」
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後端旋回半径3.7mと、従来機から0.1m短縮。またクローラ縮小時の機体幅は最小2.99mとなるため、狭所現場にも自走しながら進入できる
※作業時はクローラを張り出してください。クローラ縮小状態での作業は行えません

コベルコ建機ならではの
「ユーザ現場主義」を貫く

これまでコベルコ建機では、「ユーザ現場主義」の姿勢を一貫しており、この開発でもそれが随所に反映されている。例えば、都市周辺部の現場は非常に狭く、組立場所に悩むケースが多い。日々サービスの最前線に立つ北村勇樹は、現場ニーズを肌で感じてきた経験で、当初から「TK550Gのニーズは高い」と確信していたという。
「TK550Gは、75tクラスよりも組立・分解が容易です。ブームを付けたまま自走して狭い現場に入ることが可能で、広い組立スペースや相番機がなくても、直ちに稼働できる状態になります。時間や労力、人件費などのロスを排除しながら、現場で即戦力化できる機動性は、現場がずっと待ち望んでいたものでした」(北村)
 加えて、今回はボディ後部を短くして後端旋回半径を3.7mに短縮している。その分、カウンタウエイトを小さくて重いものにする必要はあったが、充填などの工夫で解決。都市土木工事での機動力をより加速させた。オペレータの使い勝手や操作感を大切にする精神は、ウインチのチューニングにも表れている。ここでは油圧の担当として、井口光明が力を発揮した。
「常に安定したブレーキングを実現するために、湿式ウインチを採用しました。特にブレーキの効き方には気を配り、オペレータの方の意見をもとに、自身でも幾度となく試行錯誤を繰り返し、『気持ち良く、しかも安定して作業できる絶妙なレスポンスのタイミング』を探っていきました」(井口)

部門横断的な協力体制で
「優れた製品づくり」を

実は、TK550Gの開発メンバーは、各分野の若手スタッフが集められたものだった。「任せられた責任が重い分、開発を担う各自の成長も促された」と語るのは、機械の設計分野で活躍した久保貴史だ。
「操作する方の利便性を軸に、機体への昇降時やメンテナンスを容易にするハンドグリップの配置、ステップの位置と幅などにも徹底してこだわりました。若手中心の開発でしたが、TK750Gの開発に携わった先輩方の知見や成果を共有してもらいつつ、新たな開発テーマに取り組めたことが、プロジェクト成功の要因でした」(久保)
 一方で、プロジェクトを率いた中澤は、各自が開発に専念するための環境整備にも注力していた。
「開発部門が担っていた多くの業務を整理し、本来担うべき部門へ業務移管するなど、役割分担を明確化しました。各部門への交渉は苦労もありましたが、早い段階で情報共有や仕組みづくりをした結果、部門を超えた1つの開発チームとして、それぞれの守備範囲で最善を尽くし、『一丸となってより良い製品づくりを支えよう』という機運と文化を生み出せました」(中澤)
 お客様ニーズに応える開発姿勢と、部門を超えて「優れたものづくり」を進める企業文化の構築から誕生したTK550G。購入したお客様からもさっそく、その輸送性・組立性や燃料タンクの大型化、基礎工事用アタッチメントを装着した作業の実現などに支持が集まっており、評価も上々だ。都市部の工事需要が拡大するなかで、TK-Gシリーズのさらに幅広いお客様への広がりが期待される。
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出荷前のTK550Gの前に集う開発メンバー。将来の開発プロジェクトを担う若手を中心に結成された

※掲載内容は発行当時(2019年1月)の情報です。

太田利之= 取材・文 三浦泰章= 撮影 text by Toshiyuki Ota/photographs by Yasuaki Miura