コベルコ建設機械ニュース

Vol.261Aug.2023

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特集クレーン施工計画を最適化するK-D2 PLANNER®の実力

クレーン施工計画を最適化する
K-D2 PLANNER®の実力

想定外のできごとが起こり得る土木建設現場において、
手戻り防止に向けてあらゆる事態を想定し対策を立てておくことが、工期圧縮や生産性アップ、安全性向上などにつながる。
そこでクレーンを知り尽くした建機メーカならではのシミュレーションソフト『K-D2 PLANNER®』がリリースされた。
今回はその背景と事業化への経緯、ユーザの声などを紹介したい。

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業界トレンド

今こそ業務の再点検・大改革を
土木建設業界の課題は
待ったなし!

まず、『K-D2 PLANNER®』の
製品背景となる土木建設業界のトレンドを、
建設ITジャーナリストの
家入龍太氏に語ってもらった。

家入 龍太氏

建設ITジャーナリスト/
株式会社建設ITワールド
代表取締役

家入 龍太

BIM/CIM情報化施工などの導入で、生産性向上、地球環境保全、国際化等、建設業界の経営課題解決への情報を「一歩先の視点」で発信し続けている。

土木建設業界の課題とソリューション

木建設業界では人手不足、利益率の低迷、業務効率化の遅れなどの深刻化が叫ばれ続けています。なかでも工程や経営の効率化こそが、人手不足への対応や利益率アップへの鍵をも握っている点は見逃すことができません。つまり、属人性が高く労働集約的だった業務プロセスの改革と、個々人に閉じられがちだったノウハウの標準化と共有化を進め、生産性向上を図る構造的な変革が求められているのです。

測量~設計~施工~管理を貫くデジタルデータの活用によって、安全性向上や人手不足の解消、熟練技術の継承、生産性アップなどを図るソリューションこそが、建設業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の大きな狙いです。建設DXの核となるものに建造物のモデル化BIM(Building Information Modeling)や建設情報のモデル化CIM(Construction Information Modeling)があり、いずれも目下、国交省を中心とした国家的施策として、推進されています。

業界改革のキーとなるデジタル戦略とは

BIM/CIMによるデジタルデータの活用は、想定外の事態も多い建設環境のなかで、設計変更への対応も容易になります。また、実際の施工前にさまざまな条件下でのシミュレーションが可能になるため、あらかじめトラブルの芽を摘んでおくことで、手戻りを廃しながら工期の圧縮なども実現するのです。

今、ものづくりを担う工業界では設計の初期段階に負荷をかけ、後工程のトラブルを排除する「フロント・ローディング」が進められています。同様に土木建設業界においても、設計の上流段階で3D設計データと周辺属性データの摺り合わせによる検証を行うことで、早期に設計品質を高めることが可能になります。例えば、施工前に実際の施工現場を仮想的に再現することで、クレーンのブームが足場や高圧線、およびその放電範囲と接触する「干渉」を事前にチェック。さらに、旋回による後部カウンタウエイトと周辺設備などとの干渉を確認することも可能となり、無用の事故を未然に防ぐことができます。

急速に普及が進むICT施工と海外の先進事例

すでに日本においても、デジタルデータの活用による施工のICT化が、随所で進められています。例えば、ドローンやスペーススキャナの点群データの活用によって、正確な測量をスピーディに実現。さらに、GPSの位置情報と3D設計データによる丁張りレスの施工は、コスト削減と同時に、重機まわりの作業者を不要にすることで、安全性を格段に向上させています。

またクレーンの作業進捗とシンクロしながら資材トラックの配車を指示し、「作業待ち」のロスを排除することで、工期圧縮と働き方改革を同時に解決した事例もあります。さらに、ドローン測量によって、正確な排土量の測定~見積~請求書作成までを一気通貫で実行するなどの施策も進められており、施工現場はもちろん、オペレータの帰社後の事務処理や、バックオフィスの業務軽減にも貢献しているのです。

また、小型クローラクレーンにコンクリート噴出ノズルを装着し、従来の型枠工程をカットして、3D設計データにもとづいてダイレクトに基礎を構築するなどの動きも拡大しています。まさにクレーンが巨大な3Dプリンターになるのです。大工仕事に依存していた型枠構築の人員や期間、コストを大幅に削減。さらに型枠に要する木材も不要になるので、SDGs(Sustainable Development Goals)が求められる時代背景にもジャストフィットしたものとして注目を集めています。

少子高齢化による、生産年齢人口減少が進む日本では、今後益々外国人労働者への依存度が高まっていかざるを得ません。そもそも多民族国家で、外国からの流入人口も多いシンガポールでは、3D-CADのアニメーション機能やVRの活用などによる視覚化が、大きなパワーを発揮しています。タブレットやスマートフォン、ゴーグル上で、作業手順や先ほど述べた干渉などの注意点が一目瞭然。言語の壁を越えて、より深い相互理解を図ることができ、生産性や安全性の向上を実現しています。

次代を見据えた情報化施工への視座確立を

経験や勘に依存していた匠の技の継承性をサポートするものとして、ジャイロを活用してクレーンの荷の安定性や方向制御を図ったり、玉掛けをサポートする後付け装置も開発されていますので、その辺りから導入を図るという手もありそうです。

建設機械の遠隔操作も加速度的な進化のなかで、もはや夢物語ではなくなりつつあります。作業者のロケーションを選ばず、居ながらにしてさまざまな現場の作業が実現するので、移動に関わる時間や労力などの働き方改革、さらに燃料の削減にもつながり、脱炭素化への時代要請にも貢献します。また、施工現場の裏側などを含めた複数の周辺カメラの画像を確認しながら、より安全確実な作業が実現するでしょう。
いずれにしても、業界を巡る諸課題は焦眉の課題であり、それらの解決を図るICTソリューションも日進月歩。今から来るべき次代を見据えた視点で、準備を進めていきたいものです。

  • 太田利之= 取材・文 text by Toshiyuki Ota
  • 三浦伸一= 撮影 photographs by Shinichi Miura