油圧システムの電子制御化で広がる
新型機SK200の可能性

コベルコ建機は、主力20tクラス油圧ショベルを約10年ぶりにフルモデルチェンジし、新型機「SK200」を8月に発売した。最大の特長は、油圧システムの電子制御化を実現するとともに、OTA(Over the Air)技術を採用したことだ。これにより、施工の自動化や安全性、生産性の向上など、変化する建設現場のニーズに柔軟に対応。さらに、建機導入後もソフトウェアの更新によって機能を拡張することも可能になった。機械を完成品ではなく、「進化し続けるプラットフォーム」と位置付けた新型SK200は、コベルコ建機の新たな価値創造を象徴する一台となっている。
その建機は、導入後も成長し続ける
コベルコ建機が満を持して市場に投入した新型ショベル「SK200」。その開発を率いたのが、開発責任者の山下耕治だ。1994年に神戸製鋼に入社後、一貫してショベルの開発、特に電気やソフトウェアの領域を歩んできた。ハイブリッドショベルの開発や、広島大学との共同研究機関の立ち上げにも深く関わり、同社の先進技術の種をまき続けてきた技術者である。
新型SK200開発の原点には、建設業界が抱える課題があった。人手不足や熟練技能者の減少など、現場を取り巻く環境は大きく変化している。
「経験の浅いオペレータでも安全かつ高品質な作業ができる環境づくりが、これからの建設機械に求められる役割だと考えました」
その実現を支えたのが、油圧システムの電子制御化だ。レバー操作をはじめ、機械に入力されるさまざまな情報を電気信号として瞬時に読み取り、高度な制御を行う。この電子制御の導入によって、従来の油圧駆動では難しかった、より緻密で複雑な作業が可能になり、オペレータの能力を最大限に引き出す多様な機能を搭載するための技術基盤が整った。
新型SK200が目指したのは、高性能な油圧ショベルを開発することだけではない。コベルコ建機が描いたのは、現場のニーズに応じて新たな機能を追加し、導入後も成長を続ける「建機のプラットフォーム」という発想だった。その中核となるのが、無線通信によりソフトウェアを更新し、機能を拡張できるOTA(Over the Air)技術である。
「自動車がアプリの更新によって進化する時代になっているように、建設機械もソフトウェアの書き換えによって性能を向上させ、成長していく。新型SK200は、そんな新しい時代を切り拓く一台であり、コベルコ建機が描く未来の建設機械の姿を具現化したモデルなのです」

執行役員
技術開発本部、
DXソリューション事業本部
広島大学 客員教授
お客様とともに進化する建機へ
新型SK200には単なる新型機の開発を超えた、コベルコ建機の未来像が込められている。その根底にあるのが、「お客様の課題解決に寄り添う建設機械」という考え方だ。
新型SK200には、そうした思想を具現化する多彩な機能が搭載されている。掘削アシストや旋回アシストは、経験の浅いオペレータを支援しながら、熟練者の負担軽減にもつながる。鳥瞰(ちょうかん)表示システムや周囲検知警報システム、領域制限機能によって、安全性の向上にも取り組んだ。さらに、操作画面のインターフェースやシート形状に至るまで、長時間作業でも疲れにくい環境づくりを追求している。
「重機の遠隔操作システム「K-DIVE®」との親和性が高まり、これまでショベルの大掛かりな改造が必要だった導入作業も、通信機器などを追加するだけで対応しやすくなりました。土木分野だけでなく、今後は建物解体をはじめ多様な分野への展開も視野に入れています」
さらに、新型SK200はお客様との関係性そのものを変える可能性を秘めている。導入後もソフトウェア更新で機能を追加・改善できるため、現場で生まれた課題や要望を新たな価値として還元し、お客様とともに機械を進化させていくことが可能になる。その先に見据えるのは、建設機械メーカとしての新しい姿だ。
「これまでは機械を納めたら一区切りでした。でも、これからは違います。実際に使っていただいた声を聞きながら、一緒に製品を育てていく時代になると思っています」
完成した製品を届ける時代から、お客様とともに進化し続けるプラットフォームの構築へ。新型SK200には、現場の課題を新たな価値へと変え、建設業界の未来を支えていこうとするコベルコ建機の挑戦が込められている。
新型ショベルSK200注目すべき5つの特長
現場で本当に役立つショベルを目指し、生産性・効率性・安全性を追求。
新型SK200のこだわりを5つの視点で紹介する。
1進化する性能
将来的に、さらなる性能の向上が可能に。
機能拡張できるプラットフォーム
ソフトウェアをアップデートすることで、バージョンアップや新しい機能の追加が可能。
導入後も現場のニーズに応えながら、建機そのものが進化し続ける。
基本性能もパワーアップ
油圧システムのセッティングを最適化することにより、燃費性能を向上させた。
| 掘削性能 | 最大アーム掘削力 | 旋回時の加速 | 高性能エンジン |
|---|---|---|---|
| 生産性[m3/L] 10%UP※ | [通常時/109kN] 7%UP※ [パワーアップ時/120kN] 7%UP※ |
旋回トルク 12%UP※ | 型式: ヤンマー YDR- 4TN107 定格出力: 122 kW / 2,000 min-1 |
- SK200-10比。生産性は燃料1Lあたりの土量(数値は作業条件により変わります)
2先進アシスト機能
誰もが効率よく作業できる、先進のアシスト機能
日々の作業をより正確かつ効率的に行えるよう、多彩なアシスト機能を搭載。オペレータの負担を軽減し、生産性の向上に貢献する。

掘削アシスト機能

旋回アシスト機能

ペイロード

シングルペダル走行機能

ジョイスティック走行機能

2DMC/2DMG
3安全補助機能
現場で働く一人ひとりの安全を守る、コベルコ建機ならではのセーフティ機能
高度な安全技術で作業リスクを低減し、現場で働く人の安心と事故ゼロを支える。

鳥瞰(ちょうかん)表示システム

周囲検知警報システム


領域制限機能
あらかじめ設定した作業範囲に近づくと、自動で動作を制限・停止。ショベルを中心に、上下・前後・左右の6面で作業領域を設定でき、電線や天井、壁、地下埋設物などとの接触リスクを低減。狭い現場でも安心。
4快適な室内
オペレータの快適さ、使いやすさを徹底して追求した、理想の作業空間
オペレータの負担軽減を追求した自社開発のオリジナルシートと、直感的に操作できる大型タッチパネルを採用。
長時間の作業でも快適に集中できるキャビン空間を実現した。


コンフォートシートとタッチパネルディスプレイ
オペレータの快適性を追求したコンフォートシートを採用。身体を面で支えて体圧を分散する構造と、上下方向の振動を吸収するサスペンションにより、長時間の作業でも安定した姿勢を保つ。擦れやすい部分には耐久性に優れた合成皮革を、背中や臀部が触れる部分には通気性の高い素材を採用し、ムレを軽減。快適性と、現場で求められる耐久性を高次元で両立した。また大画面で見やすく、タッチ式で直感的な操作が可能なディスプレイも搭載。
5機械マネジメントの向上
マシンを見守り安定稼働を支える、管理ソリューション
遠隔診断によりトラブルの早期発見と予防保全をサポートし、稼働停止のリスクを低減。
さらに、整備しやすいレイアウトを採用することで、メンテナンス性も高めた。

稼働管理システム

予防保全システム
新型「SK200」開発メンバー座談会建機の未来を見据えて
現場を支える新しい価値提供を

建設現場では、人手不足の深刻化やICT施工の普及など、かつてない変化が進んでいる。
こうした時代の要請に応えるため、コベルコ建機が開発したのが新型ショベル「SK200」だ。
開発陣が目指したのは、単なるモデルチェンジではない。電子制御を核とした新たなプラットフォームを構築し、ソフトウェアによって価値を高め続ける建機という、新しい発想への挑戦だった。
プロジェクトの中核を担った5人が、開発の舞台裏を振り返る。

道井 築
各部門から寄せられる要望を取りまとめ、機械としてどう実現するかを担当

西本 裕章
要望実現に向け技術開発本部を取りまとめるなど、プロジェクト全体の統括を担当

石田 康史
ショベル商品開発グループ グループ長
営業、サービス、市場の声を集約・分析し、プロダクト全体の企画・推進を統括

浅野 聡一朗
マシンガイダンスやマシンコントロールをはじめとするICT機能を担当

辻󠄀 剛平
このショベルをどのような価値としてお客様へ届けるか、販売戦略を担当
「建機からプラットフォームへ」という発想

——今回のプロジェクトは、どのようにスタートしたのでしょうか。
西本:2022年頃に半年以上かけてコンセプトづくりを行い、本格的な開発がスタートしました。市場が今なにを求めているかだけではなく、5年後、10年後の建設現場がどう変化しているのかまで見据え、「これからの建機にはなにが必要か」を徹底的に議論しました。
石田:将来的には、人手不足はさらに深刻になり、ICT施工やゼロエミッションへの対応も当たり前になっていくでしょう。そうした社会の変化を踏まえ、「建機はどんな価値を提供すべきか」を営業と開発が一緒になって考えました。
——市場からは、多くの要望が寄せられたそうですね。
石田:はい。国内外のお客様から数多くの要望が寄せられました。しかし、市場や地域によって求められる内容はさまざまで、そのすべてを製品に反映することは現実的ではありません。そこでお客様の価値や課題解決への貢献度を基準に一つひとつを見極め、本当に優先すべきテーマを何度も議論し、最終的には十数項目まで絞り込みました。
西本:重要だったのは、単純に機能を増やすことではありません。これからの建設現場では、オペレータ一人ひとりの負担を減らし、経験の違いを補いながら能力を最大限に引き出すことが求められます。そのためにショベルはなにができるのか。その視点で開発の優先順位を決めていきました。
辻󠄀:その結果、生まれたのが「建機を進化し続けるプラットフォームへ」という考え方でした。従来は、新しい機能を追加するには部品交換や新しいモデルへの買い替えが必要でしたが、今回の開発でソフト・ハード両面のアップデートによって機能を進化させ、導入後も価値を高め続けられるショベルを目指しました。つまり、納車が完成ではなく、お客様とともに成長していく建機という発想です。
浅野:そのためには、新しい機能を載せるだけでは足りませんでした。将来どんな技術にも対応できるよう、制御システムそのものを一から見直し、新しい基盤を構築しています。今回の開発は、新型ショベルをつくるプロジェクトであると同時に、未来の建機づくりの土台を築く挑戦でもありました。
電子制御化は「目的」ではなくスタートライン

——今回の開発では、油圧システムの電子制御化が大きな技術革新の一つだと伺っています。しかし皆さんのお話を聞いていると、それ自体が目標ではなかったようですね。
西本:その通りです。社内でも何度も議論しましたが、電子制御化そのものがお客様の価値になるわけではありません。操作方式が電子制御になることは技術的には大きな進歩ですが、お客様にとって大切なのは「それによってなにができるようになるのか」です。開発では、その視点を最後までぶれさせずに取り組みました。
道井:従来は油圧によって操作を伝えていましたが、電子制御化によってコントローラーがショベルの動きを直接制御できるようになります。その結果、人の操作だけでは実現できなかった制御や、オペレータを支援するアシスト機能が可能になります。電子制御化は、新しい価値を生み出すためのスタートラインだと考えています。
浅野:私たちが特にこだわったのは、ショベル自身が機体の状態を正確に把握できることです。ブームやアーム、バケットが今どこにあり、どのような姿勢で動いているのかを高精度で認識できなければ、高度な制御は実現できません。そのため、新しいセンサーや制御ロジックを一から構築しました。
道井:言い換えれば、ショベルが「自身の動きを理解できる」ようになったということです。この基盤があるからこそ、新たに搭載したアシスト機能だけでなく、将来の遠隔操作や自動運転といった技術にも発展させることができます。今回の開発で最も重要だったのは、目の前の機能だけではなく、その先の可能性まで見据えた土台をつくることでした。
コベルコ建機だからこそ、自分たちでつくる

——ICT機能については、自社開発にも力を入れられたそうですね。
浅野:これまでは外部メーカのシステムを組み合わせることが中心でした。しかし、その方法では私たちが理想とする操作感や制御を細部まで追求することは難しかったのです。マシンコントロールを自社開発することで、ショベルメーカとして目指す動きを、自分たちの手でつくり込めるようになりました。
西本:私たちは油圧ショベルメーカです。だからこそ「自分たちの機械は自分たちで動かす」という想いがありました。もちろん外部パートナーとの協力は欠かせませんが、機械の動きを最終的に決めるのは自分たちでありたい。その考えが、今回の開発の根底にあります。
——新しい機能を開発する上では、評価基準を決めることも難しかったそうですね。
道井:既存の機能であれば比較対象がありますが、新しい価値には「正解」がありません。例えば、どこまで操作をアシストすれば自然に感じてもらえるのか、減速制御はどのタイミングが最も違和感がないのか。数値だけでは判断できない部分が数多くありました。
辻󠄀:他社と同じ機能を並べるだけでは意味がありません。お客様が「使いやすい」「作業が楽になった」と自然に感じられることが大切です。そのために営業、開発、商品企画が何度も議論を重ね、「コベルコ建機らしい価値とはなにか」を突き詰めていきました。
西本:今回私たちがつくったのは、一つの新機能ではありません。これから先、お客様の声を反映しながら機能を進化させ続けられるプラットフォームです。建設現場がどのように変化しても対応できる土台を築けたことが、このプロジェクトの大きな成果だと考えています。
「すごい技術」ではなく、「自然に使える技術」を

——今回のショベルは、多くの新機能を搭載していますが、完成までには実際のオペレータにも評価していただいたそうですね。
石田:はい、国内外のお客様に試乗していただき、率直なご意見を数多くいただきました。私たちが確認したかったのは、「現場で本当に役立つか」ということです。もちろん最初から高い評価をいただけたわけではありません。「振動が気になる」「動きが少し遅い」「もっと自然な操作感にしてほしい」といった厳しい声もありました。そうした一つひとつのご意見を開発部門へフィードバックし、改善を重ねていきました。
浅野:評価にご協力いただいた方々のなかには、他社のICT施工機を日頃から使いこなしているオペレータの方も数多くいらっしゃいました。期待値が高い分、求められるレベルも高くなります。その声を受けて制御を調整し、再び現場で評価していただく。その繰り返しでした。
西本:私たちが目指したのは、「すごい技術」を見せることではありません。オペレータが乗った瞬間に「なんだか作業しやすい」「前より疲れにくい」と、自然に感じてもらえること。それが理想でした。高度な制御を意識させない自然な使いやすさこそ、本当に価値のある技術だと考えています。
辻󠄀:商品企画部としても同じ想いです。どれほど優れた技術でも、現場で使われなければ意味がありません。新しい機能を搭載すること自体が目的ではなく、お客様の仕事を少しでも楽にし、安全性や生産性の向上につなげること。それが今回の製品づくりの基本的な考え方でした。
部門を超えて一つの答えをつくる

——最後に、このプロジェクトを振り返っての想いをお聞かせください。
道井:お客様にはこれまでも近い将来の現場の姿、そこで必要となるであろう機能を見越して建機を導入していただいていたと思います。しかし今回の新型「SK200」の開発を通して構築した電子制御プラットフォームは、その時間軸をさらに延長する、あるいは今後主流となる機能を予測されるリスクから解放するものだと思います。現場での使い方や社会の変化に合わせて、機械そのものが進化していける。そのベースが築けたと思っています。
浅野:電子制御化や高精度な姿勢認識も、そのための基盤技術です。遠隔操作や自動運転、新しいアシスト機能など、これから生まれる技術もこのプラットフォームがあるからこそ実現できます。今回完成したのは、一つの機能ではなく未来へつながる仕組みそのものだと考えています。
石田:国内外のお客様の声、営業の視点、設計の考え方。それぞれ立場は異なりますが、「もっと良い機械をつくりたい」という想いは全員に共通していました。異なる意見を1つの製品へまとめ上げるのは簡単ではありませんでしたが、その積み重ねが今回のショベルの完成につながったと思います。営業がお客様の声を届け、開発が技術で応え、商品企画が市場価値へとつなげる。それぞれの専門性を持ち寄ったからこそ、これまでにない価値を形にすることができました。
西本:私たちが完成させたかったのは、一台の新型ショベルではありません。建設現場はこれからも、人手不足への対応やICT施工、自動化、カーボンニュートラルなど、大きく変化していきます。その変化に応え続けられる建機を、お客様とともにつくりたい。そのためのプラットフォームを築けたことが、このプロジェクト最大の成果です。
ショベルは、納車された瞬間がゴールではない。現場で使われ、お客様の声を取り込みながら成長を続ける。その新しい建機のあり方こそ、今回のプロジェクトが目指した未来です。

山田高弘= 取材・文 text by Takahiro Yamada
三浦泰章= 撮影撮影(P3およびP6~9の人物) photographs by Yasuaki Miura
